オリンピックには全く興味がないんだけど、あらゆる場所で放送されるので、積極的に視聴する気が無くても、ついつい1シーズンで3時間くらいは観てしまっている。
なので、「人生でオリンピック観たのなんてトータルで30分もない」と言い切る吉田豪さんはスゴい。
そんな、オリンピックはおろかスポーツには基本的に興味がないという吉田豪さんの格闘家へのインタビュー記事だが、やはりとても面白い。
昨年出版された『吉田豪の空手★バカ一代』は、 梶原一騎や大山倍達にまつわる格闘家たちへのインタビュー集。
とにかく豪快な格闘家たちのエピソードが桁外れなハチャメチャさで、とても面白く、興味深く読ませてもらった。
ということで『吉田豪の"最狂"全女伝説 女子プロレスラー・インタビュー集』。
”全女”、正式名称は『全日本女子プロレス興業株式会社』。旗揚げは1968年。
松永家の典型的な同族会社で、どんぶり経営。
これぞ「ザ・昭和」な興行会社で、選手はほぼ中学生くらいの、世間をまったく知らない年頃で入団し、やがて実力もついて人気も出てくるが、同時に知恵もついてくるので、会社が扱いにくくなってくる25歳くらいで退団コースという。
まぁ現代の感覚でいうと超ブラック企業なんだけど、不思議とどの選手も、会社や松永会長、松永社長のことを悪く思っていない。
ここらへんは、かなりハチャメチャな行動で周囲の人を振り回してきた大山総裁のことを、最終的には弟子や関係者は誰も悪く言わないのといっしょだなと思った。
男子プロレス以上のハードな訓練をこなして、しかも試合はガチに近かったという。
どの選手も壮絶な、そして濃いプロレス人生を歩んできたんだなーってのがすごく伝わってきた。
女子プロにはあまり興味がなかったので、インタビュー対象の選手の半分くらいは全然知らなかったんだけど、いやー面白かった!
なお選手ではないけど、ずっと全女の実況を行っていたフリーアナウンサーの志生野温夫氏のインタビューも、なかなかデンジャラスで爆笑だったんだけど、志生野氏の後輩だった元日テレの清水一郎アナのセリフが笑えた。
「志生野さん、プロレスは究極のプロスポーツなんだ。テレビも活字もみんな期待してるのに、王選手が60周年のときに巨人軍監督やって優勝できないでしょ。これがプロ野球の限界だ。プロレスはそうじゃない。絶対に優勝してファンを満足させる」
だって!
そして本書では少しだけ触れられていたけど、全日本女子には「小人プロレス」(ミゼットプロレス)の選手も所属していた。
テレビ放送がなかったのでその存在すら初めて知ったんだけど、全女旗揚げ当初は前座ながら小人プロレスのほうが圧倒的に人気があって、小人プロレスの試合が終わったら女子プロの試合を観ずに帰るお客さんもいたそうだ。
『笑撃! これが小人プロレスだ』は、そんな小人プロレスの選手を長年取材してきた著者の高部雨市さんの渾身のノンフェクション。
吉田豪さんのインタビュー本とは違って、本書のインタビューは限りなく重い。
全女の小人レスラーだけでなく、俳優の白木みのる氏や低身長症に関わる人たちへのインタビュー、マメ山田さんや赤星満さんなど低身長症の俳優さん達の座談会なども収録されており、また著者自身の差別意識に対する葛藤と、世間の異端の人々に向ける差別意識への静かな怒りが文学的な表現で長く綴られているため、正直、読むのはちょっとしんどい。
しかし、普段は無意識に遠ざけている自分自身の「異端の人々」への差別意識について改めて意識して、考えさせられるきっかけになった。
演出家の故・蜷川幸雄さんへのインタビューで、彼の舞台にしばしば低身長症の俳優を出演させていた理由を聞かれたこの言葉が印象的だった。
「まあねェ、この世に存在しているんだから、舞台の上でも存在したらいいと。」
また本書には、貴重な小人プロレスの試合の模様を収録したDVDが付いている。
おそらく志生野温夫氏だと思われる、軽妙な実況が楽しい。
『吉田豪の"最狂"全女伝説』と『笑撃! これが小人プロレスだ』、あたかも「陽と陰」、「光と影」といった対比になってしまうが、前者は楽しく読めて、後者は考えさせられる内容になっていて、どちらも素晴らしい。