「詩の翻訳はレインコートを着てシャワーを浴びているようなもの」
これは本編の重要なシーンで、永瀬正敏が演じる日本人の詩人のセリフなんだけど、なんてセンスがあって含蓄のある言葉なんだろうと思う。
ジム・ジャームッシュ作品のセリフやカットや小物は、本当にお洒落。
もちろん、しゃらくさい感がまったくない方のお洒落さ。
ということで、『ベイビー・ドライバー』を観た翌日に、バス運転手(ドライバー)役である主人公をアダム・ドライバーが演じる『パターソン』を観てきました。場所は新宿武蔵野館。
舞台はアメリカはニュージャージー州のパターソン市。
そこで恋人とブルドックとで静かに暮らすパターソン。
町と同じ名前。仕事は市バスの運転手。
日々の暮らしからインスピレーションを得て創作した詩をノートに手書きで書きつけているが、作品を世に出そうとは思っていない。
束縛されている気がするからスマホは持たない。
平日は決まった時間に起きてシリアルを食べて弁当を持って職場に出かけ、日中はバスを運転し、夕食後は犬の散歩のついでに行きつけのバーでビールを1杯だけ飲んで帰る。
そんなパターソンの日々の暮らしを1週間分、淡々と描いただけの作品。
もちろん、派手なカーチェイスや銃撃戦もないし、宇宙人もタイツをはいたスーパーヒーローもでない。
しかもテーマは詩。ポエムですよ。
いまどきポエムを書いたり読んだりする人なんているんだろうか。
これほど地味な設定と地味なテーマの映画だけど、今年観た映画のなかでは一番、好きな作品。
寡黙なパターソンがルーチンな日常で見かける景色、なにげない人々の会話、カットのひとつひとつがどれも美しい。
ワンシーンたりともおろそかにしたくないほど、粋でお洒落なセリフとシーンに溢れている作品。
そして主役のアダム・ドライバー。
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のカイロ・レンがマスクを脱いで、初めてアダム・ドライバーの顔を観たときの衝撃!
「うゎ!なにこのショボい男?」
作品自体も自分的には最悪だったこともあり、アダム・ドライバーのファースト・インプレッションは非常に悪いんだけど、『沈黙 -サイレンス-』のフランシス・ガルペ神父役がとても素晴らしく、「カイロ・レン役でバカにしてすまんかった!」となったけど、本作での彼は、ほんとうに素晴らしかった。
寡黙で真面目で優しそうだが、どこか捉えどころのないパターソンという難しいキャラクター、アダム・ドライバー以外の俳優では成り立つんだろうか?というくらいハマっていた。
あと、陰の主役とも言えるイングリッシュ・ブルドッグのマーヴィン。
こいつが本当に悪いやつで、毎晩散歩に連れて行ってくれるパターソンにいろいろと酷いことをするんだけど、実はネリーという雌犬なんだそう。
なんと彼女、カンヌ国際映画祭ですばらしい演技を披露した俳優犬に贈られるという「パルム・ドッグ賞」を受賞したそうだが、受賞前に亡くなったらしい。
エンドロールに「in memory of nelly」とクレジットされてたので誰のことかと思ってたけど、彼女のことだったのね。
惜しい役者を亡くしたもの。
なおジム・ジャームッシュ監督によれば、バス・ドライバーだからアダム・ドライバーをキャスティングしたワケではない、とのこと。
(いや、「バス・ドライバーだからアダム・ドライバーをキャスティングしたんだな」なんて誰も思っていないから!)
ユリイカ 2017年9月号 特集=ジム・ジャームッシュ ―『ストレンジャー・ザン・パラダイス』から『パターソン』『ギミー・デンジャー』へ―あるいはイギー・ポップ&ザ・ストゥージズ―
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