前回の『地獄の黙示録』以来の「午前十時の映画祭」
ご存知、黒澤明監督『椿三十郎』
モノクロ作品は古臭いから観たくないとゴネる妻を諭して、またも休日の歌舞伎町に朝っぱらからやってきた。
この作品に関しては間違いなく面白いので心配していなかったが、案の定、というか想像以上に妻も面白く鑑賞したようで、例のラストシーンでは泣いていたくらいだ。(自分も泣いたが)
初期黒澤作品でもとりわけ人気の高い多くの時代劇作品『七人の侍』や『用心棒』に比べてコミカルなシーンも多く、『隠し砦の三悪人』や『蜘蛛巣城』より以上に三船敏郎の演じるキャラクターのキャラ立ちがハンパなくいい。
久しぶりに観て改めて感じたが、演出がわかりやすくて今観ても古さをあまり感じさせない。
例えば、椿三十郎が手枕でウトウトしている時に、若侍たちが勢い込んで部屋に入ってきて、襖をバンッと閉める音で目を覚まされ渋い顔をするシーンが何度か繰り返される。
冷静に状況を判断している経験豊富な三十郎の落ち着きぶりと、意気盛んだが若さと経験不足のせいで思慮が浅い若侍たちの落ち着きなさぶりが上手く対比されていて、観客に物凄く伝わりやすい。
悪く言えば単純だが、ある意味スタイリッシュでストレートな演出が、やはりいい。
黒澤監督が好き過ぎて、自作の『レディ・プレイヤー1』に世界の三船キャラを登場させたほどクロサワ好きのスピルバーグ監督だが、久しぶりに観たスピルバーグ作品である『レディ・プレイヤー1』や『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』などからも、単純でわかりやすい演出が散見されて、黒澤映画の影響を多大に受けているんだなと改めて思わされた。
本作でも、どちらかというと基調はコミカルながら、殺陣のシーンでは一転、殺伐としたヴァイオレンス調になる。特にラストシーン、椿三十郎と仲代達矢が演ずる室戸半兵衛との一騎打ちシーンでの緊迫感と盛大な血煙!
これには初めて本作を観る妻もビックリしたようだが・・・
基本的にはヒューマンな作品が多いスピルバーグ作品だが、たまに『シンドラーのリスト』や『プライベート・ライアン』など、容赦ないグロ描写も厭わない作品を作ったりするが、このコントラストも黒澤映画からの影響かもしれない。
そういえば本作、角川映画製作、森田芳光監督、織田裕二主演でリメイク版が製作されたが、やはり観る気がしない。
トヨエツ版の『丹下左膳 百万両の壺』はそれなりに面白かったけど、これはアカンでしょ。
つか、三船敏郎のような風貌、雰囲気を持った役者って、もう平成にはいないし、どんな名優でも三船のリメイクなんてムリでしょう。
リメイク版『椿三十郎』についてWikipediaでは、以下のように書かれていた。
完成披露会見で、製作総指揮の角川春樹が「40億円は最低ライン。そこからどれだけ伸ばせるかが勝負。60億円が一つの目安になる」と、前年の松竹配給の木村拓哉主演の時代劇『武士の一分』の興行収入40億円超えを宣言し、話題となった。 最終的な興行収入は11.4億円