okurejeの日記

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『さようならCP』 感想 #原一男

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前夜に引き続き、またも、いそいそと渋谷アップリンクまで原一男監督に会いに行ってきた。

当夜のプログラムは『さようならCP』。原監督の記念すべき初監督作である。

 

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”CP”といってもコストパフォーマンスとかのことではない。”Cerebral Palsy” = 脳性麻痺 のことだ。
脳性麻痺者で組織された障害者団体「全国青い芝の会」のメンバーの活動を描いたドキュメンタリーで、物語は、後に同会の第2代会長を務めた横田弘さんの行動を軸に構成されている。

 

前日に『極私的エロス・恋歌1974』を鑑賞したときと同様、本作についても、事前にどんな作品なのか情報を入れないまま観たため、またまたとんでもない作品を観てしまったな、という印象だったが、あと、少なからず意味がわからない点も残ってしまった。

というのも、本作の主役とも言える横田弘さんは、他の同会メンバーのなかでも障害度が高く、自立での歩行もできず、言語障害もひどいため、ほぼ全編において、何を話されているのかわからなかったからだ。

 

今回の原監督作品特集では、おそらく全作品に英語字幕が付いており、本作でも英語字幕が付いていたが、乏しい英語力のせいで、横田さんのセリフを全て把握するのは困難だった。(それでも、知っている英単語から若干は、セリフの意味判読の役には立ったけど)
そんな、何を話しているのかわからない横田さんが、都会の雑踏を、周囲の健全者を威圧するかのように、四つん這いで「いざり」歩いてくるのだ。
例えは悪いが、まるで『リング』の山村貞子が這いよってくるようなグロテスク感すら感じてしまった。

原監督は、いったい横田さんに何をさせているんだ?しかもラスト近くでは、横田さんは素っ裸にさせられてるじゃないか!?
また、実は日本語字幕が付いていたのに、今回上映での英語字幕が被って、日本語字幕が消えちゃったんじゃないだろうね?

 

しかし本編終了後の原監督のトークショーでの作品解説で、その疑問の多くは解消された。

 

字幕については、やはり最初から付けなかったそうだ。
低予算のため字幕を付ける余裕が無かったのもあるが、観客にはセリフが聞き取れなくても映像からメッセージを受け取って欲しい、という意図もあったらしい。
なお原監督自身は、長い付き合いもあって、横田さんの会話は理解できるそうだ。
言語障害の人の発声には独特の特徴があり、ある程度慣れてその特徴をつかめば意味が理解できるとのこと。
ちなみに、永らく販売されていなかった原監督作品のDVDが2015年に再販されたが、一番売れ行きが良かったのが本作だったそうだ。
DVDは字幕のON/OFFが可能なので、字幕付きで観たい!という人が多かったらしい。

 

作品中で横田さんは、車椅子なしで横断歩道を渡り、介助なしで電車に乗り、人混みの中でポエムを朗読し、そしてなぜかラストで素っ裸になる。
本作の公開当初、世間からは「障碍者を見世物にしている!」と非難轟々だったそうだが、これは(当たり前だが)、原監督が無理やりやさせたワケでは決してなくて(横田さんのヌードはちょっと微妙)、監督と横田さんや他の「青い芝の会」メンバーによる、健全者に対する挑戦、闘いのパフォーマンスだったのだ。

ただ撮影途中で、複雑な事情から横田さんが撮影を降りたいと言い出したそうだ。
過酷な撮影続きで燃え尽きてしまったことも理由の一つだが、この作品を通して世間に風穴を開けてやろう!とメンバー全員と話していた原監督は、途中で萎(しお)れてしまった横田さんに対して内心、失望と怒りを感じていたそうだ。
「この人はもっと出来るハズなのに、なぜ途中で止めようとするんだ!」

原監督、、鬼やな・・

 

なお以下は、横田さんが起草した「青い芝の会」の行動綱領だという。
横田さんがなぜ、あの作品で必要以上に自らを晒したのか、これを読んで少し理解できた。

 

一、われらは、自らが脳性マヒ者であることを自覚する。
われらは、現代社会にあって「本来あってはならない存在」とされつつ自ら位置を認識し、そこに一切の運動の原点を置かなければならないと信じ、且、行動する。

一、われらは、強烈な自己主張を行なう。
われらが、脳性マヒ者であることを自覚した時、そこに起こるのは自らを守ろうすとる意志である。
われらは、強烈な自己主張こそがそれを成しうる唯一の路である信じ、且、行動する。

一、われらは、愛と正義を否定する。
われらは、愛と正義のもつエゴイズムを鋭く告発し、それを否定する事によって生じる人間凝視に伴う相互理解こそ真の福祉であると信じ、且、行動する。

一、われらは、問題解決の路(みち)を選ばない。
われらは、安易に問題の解決を図ろうとすることが、いかに危険な妥協への出発であるか身をもって知ってきた。
われらは、次々と問題提起を行なうことのみが、われらの行ない得る運動であると信じ、且、行動する。

 

横田さんは闘い続けて、2013年に80歳で鬼籍に入られたそうだが、それから数年、2016年には例の「相模原市障害者殺傷事件」が発生した。
横田さんや原監督の功績は大きかったが、未だにこんな基地外が発生するということは、我々の中にも根強く優生思想が残っているんじゃないだろうか、と改めて思わされてしまった。

 

そしてトークショーで原監督が仰っていたのだが、本作『さようならCP』はSMでいうと「S」の作品で、『極私的エロス・恋歌1974』は「M」の作品であるそうだ。
『さようならCP』では、途中から弱音を吐き出した横田さんに対して、「もっと闘えるハズだ!」とサディスティックにカメラで迫り、『極私的エロス・恋歌1974』では、元同棲相手の武田美由紀さんから、バカだクズだと罵倒されマゾヒスティックな気分でカメラを回すという・・なるほど・・

 

ということで、今週金曜日(8月24日)まで渋谷アップリンクで開催されている原一男監督特集「挑発するアクション・ドキュメンタリー 原一男」、まだ『全身小説家 』と新作『ニッポン国VS泉南石綿村』を観れてないのだが、さすがに平日は仕事があるので厳しい・・
今回、原一男監督を目前で拝見し、監督の魅力的な人柄に触れてますますファンになってしまった。もう、毎日でもお会いしたいくらい。
おそらく来年もアップリンクで原監督特集があることを期待、まだ未見の作品は来年の楽しみにすることとします。

原監督、いつまでもお元気で!

 


原一男監督デビュー作『さようならCP』DVD予告編 急進的な障害者団体をカメラで追った傑作!

 

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