okurejeの日記

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『ニッポン国VS泉南石綿村』 感想 #原一男

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東京都多摩市で毎年開催されている映画祭「TAMA CINEMA FORUM」にて、「平成の終わりに原一男が伝えたいこと」と題して上映される、原一男監督の最新作『ニッポン国VS泉南石綿村』を、遅れ馳せながらやっと鑑賞することができた。

 

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恥ずかしながら原監督の作品は今まで『ゆきゆきて、神軍』しか観たことがなかったのだが、今夏、渋谷アップリングで開催されていた原一男監督特集「挑発するアクション・ドキュメンタリー 原一男」にて、初めて他作品を鑑賞し、かつトークショーにて初めて、生の原監督を目前にすることができた。

しかしさすがに監督の全作品までは鑑賞叶わず、本作も見逃していたため、この機会はありがたかった。しかも今回も監督のトークショーもあるので、俄然楽しみだった。
(サービス精神旺盛で楽しい原監督のトークは、本当に面白いのだ。)

 

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しかし正気なところ、『ニッポン国VS泉南石綿村』については、過去の監督のドキュメンタリー作品と比べると、なんとなく地味な印象があり、申し訳ないが積極的に観たいと思う作品ではなかった。

過去のドキュメンタリー作で描いた人たちは、原監督いわく、「表現者」であるという。
対して、「表現者」のように強烈な個性を持たない、普通の生活を営む市井の人たちを「生活者」とし、原監督自身も「表現者」として生きたいと思い、自身の作品でも「表現者」のみを撮り続けたいと思われていたそうだ。

本作の主人公は、長くアスベストが原因の健康被害に苦しみ、葛藤を抱えながらも国を相手に訴訟を起こす公害被害者であり、どの人たちも普通の人たち、原監督がいうところの「生活者」である。
そして原監督ご自身も、8年間もの長期間に渡って本作を撮り続けながら、「生活者」が主役のこの作品が、観る者に衝撃を与えるほどの映画作品となり得るのか、最後まで不安だったそうだ。

 

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本作は、大阪泉南地区のアスベスト紡織工場の元従業員やその家族、また近隣の住民が、アスベストによる疾患を発症した責任を国に求めるため訴訟運動を行い、ついに最高裁で国に勝訴するまでを密着して描いたドキュメンタリーである。

上映時間は215分、約3時間半もある作品のため、途中でインターミッション(休憩)も挟まれるのだが、正直、インターミッションまでの時間は長く感じた。


前半は、最終的には59名になる原告被害者の主要人物の紹介シーンがメインになるのだが、彼らが病に苦しむ姿が映し出されるワケではなく、淡々としたインタビュー・シーンが主であるため、彼ら被害者の姿にそれほど感情移入が出来なかったのだ。
もちろん、自分自身がアスベスト被害について詳しく知らないこともあるのだが。

ただ後半からは、度重なる裁判(結局、大阪地裁、高裁、最高裁の3回も裁判が行われた)の結果に業を煮やした原告団の1部が、厚労省に無理やり陳情に出向くなど過激な場面も多くなり、激しい感情も表出され、ラストまでは見応えのある展開が続き、最終的には凄い力作であると感じさせられた。

 

そして本作を観て、やはり色々と考えさせられたこと。

 

まず国の対応について。
日本国はアスベストが健康に害を及ぼすのを知っていながら、経済発展を優先して規制を行わなかったことが、このように多くの被害者を生む原因となったのだから当然、責任は間違いなくある。
しかし国の立場としては、「あ、ハイハイ!日本国が悪うございました、すぐ補償しますよ」と、陳情する全ての人に気前よく対応していたら、補償金だけで国家予算を食いつぶしてしまうだろう。
なので当然国としては、なんだかんだと理由をつけて責任を回避するのも理解できる。
なんたって補償額も税金なのだし。
・・しかし、やはり被害者としてみたら、国が対応を放置したせいで不治の病となったワケだから、個人感情としてはやはり許せないだろう。国が、アスベストが危険であると把握した時点で即、使用禁止の措置を取ってくれたら、もしかしたら普通の生活を送れたかもしれないのだ。

そこで思うのが、現在問題になっている韓国の徴用工訴訟問題だ。
日本人としては、既に日韓請求権協定で「解決済み」なのに賠償請求をしてくるなんて、なんて図々しい国民だろう、とついつい感じてしまうが、しかし被害者当人からしたら、いくら何十年も前の出来事で、国家間がどう取り決めようが、奴隷のように不当に扱われた恨みが消えるワケがないし、何らかの補償と謝罪が欲しいという気持ちは当然だろう。本作のアスベスト被害者たちと同じなのだ。

 

つぎに、やはり原監督は凄い、ということ。
やっと裁判に勝訴したと思ったら、すかさず国からの控訴が繰り返される。
アスベストによる健康被害は、最近まで元気だったと思ったら急激に様態が悪くなり、あれよと言う間に鬼籍に入られる患者も多かったそうだ。
なので長引く訴訟中に、1人2人と原告が亡くなっていく現状に業を煮やして、1部の原告は、厚労省に直接、上告を行わないように何度も陳情に行くのだが、対応する若手の官僚たちから(罵声を浴びせられて彼らも大変だったろうが)、のらりくらりと躱され続ける。こんなシーンをよく撮れたものだな、と思う。

そしてラスト近く、ついに最高裁で勝訴し、当時の塩崎厚生労働大臣が被害者宅に直接伺って謝罪するシーンがあるのだが、なんとその被害者の方が、大臣訪問の数日前に亡くなってしまう。
結局、通夜の当日に塩崎大臣が被害者宅のご遺体の前で謝罪するという、「え?なんでこんなシーン撮れるの??」と思わずにはいられない場面まで、原監督はフィルムに収めているのだ。凄くないですか?原監督・・

 

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映画上映終了後のトークショーでは、やはり原監督の熱いトークで盛り上がった。
まず、どうしてこのような長尺になってしまったのか?など、作品を観てから湧いてきた観客のいくつかの疑問も、監督の解説で氷解した。

 

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期待通りの楽しくて、意義深いトークショーだった。

 


『ニッポン国VS泉南石綿村』予告編

 

・・しかし、映画上映開始からトーク終了まで、なんと5時間半!
長時間ではあったが、充実した拘束時間ではあった。

 

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