okurejeの日記

フィギュアや映画や本などについて、ゆるく書かせていただきます。

『書き出し小説』

こんにちは!


書き出し小説



紙の本ですが、天久聖一さんの『書き出し小説』を読みました。

「書き出し小説」とは文字通り、書き出しのみの小説のことで、一般の方の応募作品で、まったく素人の作品を集めたものです。

たまたまネットの記事で知ったのですが、この「書き出し」だけの小説には、すごいパワーがありました。


そもそも小説の書き出しって、とてもキャッチーなものだと思います。

例えば、カフカの『変身』

「ある朝、グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、
自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変っているのを発見した。」

・・・いきなりかよっ!って感じですよね。
これはもう、不条理小説のナニモノでもないな、と書き出しだけで分かってしまう。


鴨長明 『方丈記』

「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。」

・・・あぁ、世の無常について書いているんだなぁとしみじみとわかります。


村上春樹 『風の歌を聴け』

「完璧な文章などといったものは存在しない。
完璧な絶望が存在しないようにね。」

・・・この、「〜にね。」ってのが、いかにも春樹っぽくてヤラシイじゃないですか!


このように力のある作品の冒頭というのはすごく印象に残りますが、この『書き出し小説』のスゴイところは、作品が書き出しのみで完結するところです。

いったいどんな物語が始まるんだ!って大いに期待させますが、続きはない。
自分の脳内で想像するしかありません。


★★★★★ 


では、印象に残った作品をいくつか紹介します。


●自由部門

「あ、肉まんを考えた人か」そう思ったときにはもう、滝つぼが眼前に迫っていた


「いいね、これリビングに置きたい」彼が座ると、ソファーの脚が折れて売り場の外へ転がっていった。


貯金箱を叩き割った。20ルーブル出てきた。


メールではじまった恋は最高裁で幕を閉じた


席をつめたカップルは座ろうとせず、私はただ横の老婆にすり寄っただけの人間になってしまった。


女の私が見ても溜息が出るほど、先輩はエロティックに王を扇ぐ。


総理の抱いた人形が喋りはじめた。


●規定部門
(【】内はモチーフ。モチーフに沿って作品を作る)


【中学生】
深夜、ストリートビューで佐々木さんの家へと向かった。

【匂い】
会衆の中から迷うことなく私を選び出した司祭は、そっと私の頭頂部のにおいを嗅ぐと司教をふり返ってゆっくりとうなずいた。

【怪談】
道端に、高そうな皮手袋が落ちていたので何気なく拾った。
ら、ボトリ、中身が落ちた。

【理系】
iは虚数だ。そんな数は実在しない。愛は虚言だ。そんな感情に根拠はない。
Iは私だ。それだけは確かに存在している。

【地獄】
普段着で来ていたのは私だけだった。



・・・いかがでしょうか。
どれもすごいクオリティで、実際に絵が浮かび、思わずストーリーを想像してしまいます。


★★★★★ 


・・・そして恥かしながら自分でも作ってみました。
(まったく蛇足ながら、タイトルもつけてマス)


「真っ赤な違反」

ゆっくり走るその軽トラの荷台には老若男女100人もがひしめき合っていたが、ミニパトは何事もなかったかのように行過ぎていった


作品解説:
一昨日、近所の交差点で実際に見かけた光景です。
実際には停車した軽トラックの荷台に、なぜか10人ほど人が乗っていたのですが、停車しているためか近くを通ったミニパトはそのまま通り過ぎました。


「弥生とゆう子」

朝礼で、若女将の弥生が檄を飛ばす。
「・・・ふふふ、力が入り過ぎね。」
従業員にまじった闇の若女将・ゆう子は、小さくほくそ笑んだ


作品解説:
昨日、北陸で有名な温泉「加賀屋」の若女将が、昔仕事をごいっしょさせて頂いた方の娘さんだということを始めて知ったことからインスパイアされて。


「クイーンゼノビアの騎士たち」

師から譲り受けた無反動パルス杖を静かに鞘に収める。
「これからが勝負だ・・・」
汗ばんだ右手は無意識に「ひこにゃんお守り」を握り締めていた


作品解説:
最近、kindleで無料版の『シドニアの騎士』というマンガを読みました。
内容は印象が薄かったのですがタイトルだけが残ってしまい、それっぽいタイトルを・・・



・・・いやぁ、難しい。全然面白くない(笑)
思いついたときはイケる!と感じたのですが、実際に文章にしてみると全然ダメダメですね。

まず、なるべく短い文字数でまとめたいと思ったのですが(50文字程度)、これがなかなか難しい!


書き出し小説の奥は深いです。


それではー



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