京王線の「芦花公園駅」を降り、どこか瀟洒で緑の多い通りを進むと見えてくるガラス張りの綺麗な建物が世田谷文学館。
隣の古くて立派な日本家屋は、化粧品のウテナ創設者である久保政吉の旧邸宅だそう。
(ウテナと言っても、最近の人たちは「少女革命ウテナ」しか浮かばないのかな)
この、しゃらくさいまでに静かで、上質な暮らし感あふれた環境にて現在開催中の「ムットーニ・パラダイス」に行ってきました。
ムットーニ氏とその作品については全く知りませんでした。
今回は知人に誘われて初めて作品を鑑賞したんですが、すごくツボだった。
実は当日は朝からひどい倦怠感や疲労感が取れず、出歩くのもしんどかったのですが、作品の魅力で体調不良も忘れてしまうほどでした。
それぞれの展示作品は一定時間ごとに「始まり」ます。
大きめの箱に音楽とともに明かりが灯り、音楽に合わせて箱の中の人形が動き出す。
ミラーボールが回転して魅惑の光を振りまく。
人形も舞台も、同じ動作を繰り返すのではなく物語の進行に合わせて精密に動作する。
物語は4~5分とそれなりに長い時間。
かなり複雑な機械構造になっていると思われるが、あまりにも幻想的な動きなので、からくり動作ではなく自然に動いているかのように錯覚してしまう。
展示の作品解説パネルに書かれたこの一文が印象的でした。
ある時メカに詳しい知人に、私は作品の裏蓋を開けて見せたことがある。
すると彼は腕組みをし、「これはたまたま確実に動いているだけ」。
その言葉は私自身を言い当てていた。
ムットーニ氏はあくまでアーティストであり、メカニカル・エンジニアではない。
メカニカルに詳しい人からみたら、ムットーニ氏のからくり機械はロジカルな機械構造にはとてもなっていなかったんでしょう。
むしろ、ロジカルではなくエモーショナルな機械構造なんだと思います。
だからこそ、彼の作品は魔法の力で動いているかのように幻想的な動作になるのではないか?と思わず感じました。
とにもかくにもムットーニ氏の作品、その魅力を拙い文章で説明するのは非常に難しいので、Wikipediaの作風説明をまるっと引用。
「おはなし玉手箱」とも、作家の呼称と同じく「ムットーニ」とも呼ばれる作品を、文章で説明することは非常に難しい。
人形、箱、背景、音楽、照明、物語(ストーリー)に、作家本人による語り(口上)や時には楽器演奏なども加わる「総合芸術」である。
その為、ほとんどの展覧会では作品の稼動にあわせ、ムットーニ本人が作品に込められたストーリーや機構的な説明を語る「上演会」が行われる。
しかし、そのストーリーは作家自身が「見る人それぞれの物語があっていい」と言う通り、決して固定的ではない。
「自動人形師」という肩書きを名乗ってはいるがその作品は、機械仕掛けの人形に人間や動物の精巧なモノマネをさせる、いわゆる自動人形(オートマタ)とは全く異なり、人形はあくまで「その世界の登場人物」としての役割を担っているに過ぎない。
作品の多くは古いジャズナンバーやクラシック音楽に乗せて稼動する、ファンタジックでノスタルジアなものが多いが、ブラックユーモアや独特のエロスを感じさせるものもあり多様である。
なお会期中の土曜日と日曜日は、午後に2回、ムットーニ氏が自ら作品解説を行うギャラリートークがあり、今回は土曜日の2回目のギャラリートークに参加することができたのですが、これがとても良かった!
ムットーニ氏が自らいくつかの作品について講釈師さながらにストーリーと解説を伝えてくれるのですが、かなり慣れていらっしゃるのか、芝居がかった調子の語りがとても流暢。
…というか、むしろ胡散臭いほど語りが上手いので、作品がとてもよく理解できる。
その作風から、ちょっと気難しくて暗いイメージの方かと思ったらとんでもなくて、前のほうのお客さんはいじるは笑いは取るはで、ダンディな印象と違ってかなり親しみやすい方でした。
また、本当は展示予定だった最新作『ヘル・パラダイス』の公開が間に合わなかったのは、本展示会の図録を気合をいれて製作していたためだったというぶっちゃけ話まであって、是非とも図録を購入してくださいサインもします!という商売上手。
これは買わずにはおれない、ということで、サインも頂きましたよ!
しかし、最寄り駅から2駅目にこんな素敵な博物館があったとは…
これはまた機会をみて、再び「ムットーニ・パラダイス」に訪れたいと思います。
もちろんムットーニ氏のギャラリートークがある日で。

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