米アカデミー賞で見事、「幸薄い女性を演じさせたら世界一で賞」を受賞したサリー・ホーキンス。
そんな彼女を主演に据えた話題作『シェイプ・オブ・ウォーター』は、幸薄いヒロインと半魚人との物語をハッピーエンドで終わらせたい、というギレルモ・デル・トロ監督の願望ありきで設定されたストーリーがあまりに無理があり過ぎて、イマイチ作品としては納得できなかった。
ただ、主演のサリー・ホーキンスの幸薄い演技が素晴らしく、彼女が2016年に主演した本作、『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』を昨日鑑賞してきた。
・・・それにしても、すごい邦題だなぁ
これぞ、「世界よ、これが日本の邦題だ!」的な。ちなみに原題は『Maudie』です。
ストーリーは、カナダでは国民的な画家だが日本では殆ど知られていない女流画家、モード・ルイスと、彼女の夫であるエヴェレット・ルイスとの夫婦生活を描いた実話作品。
ティム・バートン監督作『ビッグ・アイズ』では、妻であるマーガレット・ケインの才能あふれた作品を、自分が描いた作品と偽って世の名声を得ていたこすからい夫との争いを描く映画だったが、イーサン・ホーク演じる本作の夫、エヴェレット・ルイスは真逆。
しまいにはアメリカの副大統領が絵を購入するほど有名になった妻の名声で一儲けしてやろうなんて邪(よこしま)な思考なんてなく、むしろ妻が有名になることで日常生活が煩わしくなることを嫌う、典型的な田舎の朴訥な男。
孤児院育ちで学もなく、毎日の重労働で精一杯だった超偏屈な男、エヴェレット・ルイス。せめて家事をこなしてくれる家政婦が欲しいと募集をかけるが、応じたのはいかにも貧相な、身体に障害があるようにも見受けられる女性、モード。
寡黙で、他人に気遣いなどできないこの男は、当然のように彼女を追っ払うが、結局一人も応募がなかったために、やむを得ず彼女を住み込みの家政婦として雇う。(と言っても、家は4メートル四方の犬小屋みたいに小さい部屋)
しかしのっけから、「俺の指示がないと何も動けないのか!」と怒鳴りつけるエヴェレット。
・・・って、まだ雇い主の家に着いて自分のカバンすら下ろしてないのに、テキパキ働けるワケないやろ!どんなブラック企業だよ!お前はワタミの会長か!
モードがエヴェレットの飼い犬に餌を与える躾をしようとしたら、「犬の躾なんかやめろ!この家では俺が1番エラくて、2番目が犬。3番目がニワトリ、4番目がお前だ!」・・・って、家畜以下の扱いか!
モードがエヴェレットの仕事仲間と親しく会話しようとしたら、「とっとと家の中に入れ!」といきなり殴りつけ、仕事仲間も思わず呆然として棒立ちしてしまうという・・・
時代は1930年代で、世界中どこでも男尊女卑が当たり前だったとは思うが、さすがにこのシーンには自分もドン引いてしまった。これも実話なのかな。。
もうね、「自分、不器用ですから・・」とか以前の問題で、痴呆なんじゃないか?くらいのイーサン・ホークの役作り。
ただ、エンドクレジットで夫婦の短い実写映像が流れるが、その映像内の実際のモードは、とても優しそうな笑顔の女性なんだけど、かなり小柄で、病気のせいか手も変形しており、単純な働き手を欲していたエヴェレットが、最初は彼女に辛く当たったのも何となく納得してしまった。
最初はモードを奴隷以下に扱っていたエヴェレットだったが、だんだん、お互いに寄り添うようになる。
シュリング・ウォルシュ監督は、最後まで必要以上に感動話にはせず、そこそこ淡々と物語を進める。そこが良かった。
↓まぁ、これは言い過ぎだと思うけど。
しかしサリー・ホーキンス、すごい役者さんだな。
弱者ながらも時折、したたかな表情を見せる独特の演技。
『シェイプ・オブ・ウォーター』よりも本作のほうが、彼女の本質が表現されている、とよく言われているが、確かにそうかも。特異な人物の一生を、よくぞこれだけ演じきったもの。
というか、実際のモードの笑顔と劇中のサリー・ホーキンスの笑顔がそっくりだったのでビビった!どんだけ役作りしてんだよ!
そして本作を観るまでモード・ルイスのことも彼女の作品についても、全然知らなかったけど、彼女の絵画はすごくチャーミングで素晴らしい。
彼女の作品を知ることができただけでも、この映画には観る価値があったよ。