okurejeの日記

フィギュアや映画や本などについて、ゆるく書かせていただきます。

『華氏119』 感想

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マイケル・ムーア監督の『華氏119』を観てきた。

 

2016年大統領選挙戦。
誰もがヒラリー・クリントンの勝利を疑いもせず、バックで流れるレイチェル・プラッテンの「ファイト・ソング」が、ともすれば浮かれ調子なヒラリー陣営の様子を映し出す。
一転、まさか自分たちが勝利するワケがないと思っていたトランプ陣営が大統領選勝利の報を聞いて、逆に愕然とするシーンに流れるのが、「衣装をつけろ」。
映画『アンタッチャブル』でアル・カポネがオペラ鑑賞で涙するシーンに流れた、悲壮な感じのオペラ曲で、なんというか、とてもドラマチックなオープニングから始まるこの作品。
・・さすがマイケル・ムーア、ドキュメント映像を淡々と流すだけでなく、音楽や絶妙な突っ込みのナレーションなどで演出する手腕が群を抜いていて、上質なエンターテイメント作品になっている。

なお「119」とは、大統領選挙戦に勝利したトランプが勝利宣言を行った日(2016年11月9日)。

 

この作品、単にトランプを揶揄、コケにした内容ではなく、トランプ大統領という未曽有のトンデモ大統領を誕生させた原因は、まずヒラリー陣営の票の読み間違いであり、限りなく政策が共和党化した現在の民主党の責任でもあり、国民の民意が正しく反映されない選挙人制度という時代遅れのシステムのせいであり、なによりトランプを選んだ(=投票しなかった無党派層など)アメリカ国民の責任である、と告発、警告する内容になっている。

 

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本作は主に3つの出来事をクローズアップして、現代アメリカの問題点を浮き彫りにしている。

まず1つ目は、マイケル・ムーアの出身地でもある、ミシガン州フリント市での水道汚染問題について。
同じくミシガン州のデトロイト市と同様、自動車産業の衰退で経済破綻したフリント市では、コスト削減のため水源を変更したが、劣悪な水質のために水道管が腐敗し、水道水に鉛が含有してしまう。
まさにアメリカ史上最悪と言われる水汚染公害が引き起こされたにも関わらず、財政難のため未だに水道管の補修など抜本的な対応がなされず、引越し先のない貧困層の住民は今も汚染水による健康被害で苦しんでいる。
オバマ政権時代、市民の要望に応えるかのように大歓迎のなかフリント市に訪れたオバマ大統領だが、結局、大げさなパフォーマンスほどには抜本的な対策を示すことができなかった。

さらには半ばゴーストタウン化したフリント市の街中で、市民への事前アナウンスもなく、いきなり実弾や実包でのアメリカ軍による軍事演習が行われてしまった。
これらの事件で、多くの市民は完全にオバマ政権、ひいては民主党を見限ってしまい、共和党支持か、もしくは無党派に流れて行ったそうだ。
なおこのような地域はミシガン州だけでなく全国にも多かったのだが、ヒラリーは選挙戦の際にこれらの貧困地域を軽視した選挙運動を行ったことが、トランプ政権を誕生させた要因の一つであったと、トランプ政権誕生を早くから予告していたマイケル・ムーアは伝えている。

 

・・それにしても、日本の水俣病に匹敵するような公害汚染問題が現代アメリカで発生していたことを、この映画を観るまで全く知らなかった。
自分の無知さと、日本の主要メディアでは海外の詳細状況まで報道しないせいもあり、未だにアメリカ合衆国には華やかな先進国のイメージがどうしてもあるが、マイケル・ムーア作品では、こういった様々なアメリカの問題点や闇を映し出す。

 

2つ目は、今年の2月に起きたフロリダ州のダグラス高校銃乱射事件。
17人もの死亡者を出し、事件後に高校生などが銃規制を訴える100万人規模のデモを行うなど、全米で大きな社会的影響があった事件。
銃規制問題はムーア監督のライフワークみたいなものなので、本作でも銃規制を訴える高校生たちに密着し、デモの様子も描いている。
それにしても、事件のサバイバーであるエマ・ゴンザレスのスピーチは感動的だった。
そしてトランプが、「教師にも銃を持たせてテロリストに対抗させるべき」と、「パンが無ければお菓子を食べればいいじゃない」的な発言をして、あまりにそのまんまなので笑ってしまった。

 


Emma Gonzalez's powerful March for Our Lives speech in full

 

3つ目は、企業献金で骨抜きにされた共和党、民主党の議員に失望して、彼らに頼らずに自らが議員となって政治への発言力を勝ち取ろうと立ち上がる市井の人々に取材する。
元はトランプ支持者で彼に投票もしたが、現在は反トランプ主義者として労働者の権利を勝ち取る運動を続ける、退役軍人のリチャード・オジェダ氏や、全くの政治の素人ながら草の根活動で立候補した若干28歳のアレクサンドリア・オカシオコルテス氏、ムスリム女性であるラシダ・トリーブ氏など。
なお先日の中間選挙では下院で民主党が勝利したが、見事にオカシオコルテス氏が史上最年少の女性議員として当選し、トリーブ氏も初の女性ムスリム議員として当選したそうだ。(オジェダ氏については不明)

 

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最後に、公衆の面前であからさまに、黒人など非白人に対して暴言を吐いたり暴力を振るう人たちの映像が流れる。
ヒトラーにも通ずるトランプのような人間が専制を行う世の中には、このような理性を失った人間が多く台頭してくる。ヒトラーに洗脳されてユダヤ人を迫害した人たちと同様に。
こんな流れを止めるのは今しかない。まさに今の我々は、背中に火がついている状態なのだ。2020年の大統領選では、絶対この流れを変えるべき!
という強いムーア監督のメッセージがラストに伝わってくる。

 

※なぜかこの日本版予告編ではリチャード・オジェダ氏が親トランプのように扱われてるけど、オジェダ氏は現在は反トランプ。なにこのフェイク予告!

 

2003年に初めて『ボウリング・フォー・コロンバイン』でムーア作品を観てから、ムーア監督自体はさすがに老けたな・・と思うのだが、作品で描く内容は全く変わり映えしなくて、ある意味ワン・パターンなんだけど、要するに2003年から現在まで、ムーア監督が訴え続けていることが何一つ解決されていないってことなんだよな。

 

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