okurejeの日記

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『ブラック・クランズマン』 感想

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先日のアカデミー受賞式で『グリーン・ブック』が作品賞を受賞したことにブチ切れて、会場から立ち去ろうとしたが周囲に引き留められたというスパイク・リー監督。

気持ちはわかるけど、先日『グリーン・ブック』を観たら、黒人からしてもそこまで怒るべき作品か?という疑問が湧いてくる。
じゃあ、同じく作品賞にノミネートされたスパイク・リー監督の『ブラック・クランズマン』は作品としてどうなのか?『グリーン・ブック』より素晴らしい作品なの?
これは観ないと判断できまい、ということで早速観に行ってきた。

 

1960年代に最盛期だった公民権運動も沈静化していたが、まだ黒人差別は根強く残っていた1979年。コロラド州第2の都市であるコロラドスプリングスでは初の黒人警察官として採用されたロン・ストールワースは、黒人であるという理由で、ブラックパンサー党など黒人解放過激組織の内部調査を行う潜入捜査官に抜擢される。
ある日、たまたま新聞に掲載されていたKKK(クー・クラックス・クラン)の構成員募集の記事を見て、半ば戯れにKKK支部に電話したところ、白人と勘違いされ面接に来て欲しいと誘われる。KKKの内部調査を行うチャンスと考えたロンは、先輩捜査員であり白人のフリップ・ジマーマン刑事をロンの身代わりとして潜入捜査を行いたいと上司に掛け合い承諾され、KKK構成員との電話でのやり取りはロン自身が行い、実際の対面でのやり取りはフリップが行うという2人チームで、危険な潜入捜査を開始する。

 

実は本作を観た後に、日本版予告編を初めて観たのだが、黒人と白人の刑事コンビが、まんまと組織内に潜入してKKKを騙して一泡吹かせるというコメディタッチな映画のように編集していたので、ちょっとビックリしてしまった。
過去にあまりスパイク・リー監督作品を観たことが無い人がこの予告編を観て、コメディっぽい作品を期待してたのにバリバリの社会派作品だったので拍子抜けする観客が出そうで、少なからず心配になってしまった。

 


ブラック・クランズマン - 映画予告編 スパイク・リー監督最新作

 

これも映画を観た後に知ったことだけど、ロン・ストールワースを演じたジョン・デヴィッド・ワシントンって、あのデンゼル・ワシントンの息子さんだという!
デンゼル・ワシントンにこんな大きな息子がいて、しかも立派な役者さんだったということも驚きだが、さらに驚くことに、父であるデンゼル・ワシントン主演のあの大傑作『マルコムX』と同様のテーマであるスパイク・リー監督作品に主演するなんて、あまりに感慨深いではないか。(実は子供時代に『マルコムX』にも出演していたらしい)

 

ただ作品としては『マルコムX』ほどの大作ではなかったな、というのが正直な感想。
自分的にはアカデミー賞なんて全く興味がないし、むしろ過去に作品賞を受賞した映画も観ていないことのほうが多いが、少なくともこの作品より『グリーン・ブック』の方がアカデミー賞向けだろうな、とは思った。(『グリーン・ブック』も作品賞を受賞するほどの大作ではなかったけど)
何と言うか、アカデミー賞の定義はよくわからないが、感動的だったり大スペクタルだったり、大衆に受けの良い大作が受賞するイメージだが、『ブラック・クランズマン』はいい映画ではあったが、そのどれにも当てはまらない。

いやむしろ、なんで『マルコムX』が作品賞や監督賞の受賞はおろか、ノミネートすらされなかったのかが不思議。1993年の受賞作や、どのノミネート作品よりも『マルコムX』のほうが断然面白いし、受賞作品に相応しかったのに。
・・まぁアカデミー賞なんて所詮そんなもん。

 

『ブラック・クランズマン』に戻るが、本作でロン・ストールワースの相棒であるフリップ・ジマーマンを演じたアダム・ドライバーの演技は、やはり素晴らしかった。
白人ではあるが、KKKが敵視するユダヤ人であることを隠して、淡々とした表情を装って潜入捜査を行う刑事役を見事に飄々と演じており、正体がバレないか冷や冷やする観客側の緊張感も高まってしまった。
・・というか、ロン・ストールワースは電話越しでしかKKKと対峙していないが、フリップ・ジマーマンは直接、狂信者集団と対峙していたワケで、バレたら殺されるかもしれない危険な任務を遂行していたのは主役ではなく、非黒人である相棒である、というストーリーも、よく考えたらなんだかなぁって気もする。

 

時代背景にしても、公民権運動も沈静化して、ブラックパンサー党も活動末期の時期であり、KKK自体も規模が大きく縮小して、それほど大きな影響力を持たなくなった時代である。
黒人警官がKKKの組織に(声だけ)潜入して犯罪を捜査するというシチュエーションは面白いが、作品中で阻止したKKKの事件は割とショボい犯罪だったという点も、大作感をあまり感じさせない要素だったのかな、とも思う。(大作映画がいいというワケではないが)

 

しかしラスト。
2017年に起きたシャーロッツビル事件で、極右集会「ユナイト・ザ・ライト・ラリー」に反対する群衆に、白人至上主義者が運転する自動車が思い切り突っ込んで大惨事となった、実際の生々しい映像が流れるシーンを観て、『マルコムX』のラストシーンで、ドキュメンタリー風に現代の子供たちが「I am Malcolm X」と叫ぶシーンを思い出した。

人種差別は現代アメリカでは表面上は消滅したように見えるが、実際には白人と非白人の分断は継続しているし、未だに多くの白人至上主義者が存在する。しかし、我々は彼らに屈しない、というスパイク・リー監督の強い主張が感じられる。
白人至上主義者に強く支持されているトランプが大統領である現代で、『グリーン・ブック』のような、白人と黒人の融和を描くユルい映画が受賞することに激しく憤るスパイク・リー監督の気持ちを、『ブラック・クランズマン』を観て改めて理解した。

 

まぁしかし。
『グリーン・ブック』も『ブラック・クランズマン』もどちらも面白かったけど、アカデミー賞受賞作というほどではなかったので、いっそのこと『万引き家族』に賞をあげれば良かったのに、と妻が言っていて納得した。(2人とも『万引き家族』は観てないけど)

 

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ブラック・クランズマン

ブラック・クランズマン

  • 作者: ロンストールワース,丸屋九兵衛,鈴木沓子,玉川千絵子
  • 出版社/メーカー: パルコ
  • 発売日: 2019/02/28
  • メディア: 単行本
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Blackkklansman (original Soundtrack)

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