たまに歌舞伎町で見かけることはあったが、最近まで彼が、新宿で40年以上もタイガーの姿で勤務している新聞配達員であることを知らなかった。
なんといっても東京。しかも新宿。
あんなにド派手な恰好の人を見かけても全く違和感を感じることはないのだが、さすがに40年もの長きに渡ってあのスタイルを貫き通しているのは何故なのか?
タイガーに密着して彼を追ったドキュメンタリー映画を鑑賞することで、その謎の一端を知ることが出来れば、という思いで劇場へ足を運んだ。
ちなみにその当日、上映館であるテアトル新宿に向かう数時間前に、偶然にも新宿ビックロの地下1階で、マスクオフしたタイガーにすれ違った。
もちろんマスクを外した新宿タイガーを目の当たりにしたのは初めてだったが、・・その日ばかりは、マスクを被ったタイガーさんを見たかった!
映画では彼の日常に密着し、仕事ぶりや、オフタイムに映画館に赴く様子や、夜の新宿ゴールデン街で知人の女優たちと飲む姿などを映し出すと同時に、タイガー本人や知人へのインタビューにて、彼の人となりや、ド派手なマスクとコスチューム姿を貫いている真の理由に迫ろうとするもの。
興味深かったのは、本作は新宿タイガーその人を描くとともに、彼の拠点とする新宿と、新宿ゴールデン街の歴史をも同時に紹介している点。
タイガー行きつけの何軒かのお店が紹介されるが、その中のあるお店には、かつての「青線」時代そのままの建築構造が残っており、チョンの間でお客を取っていたと思しき、梯子で登る狭い3階の部屋など、貴重な建物内の様子も見ることができて、とても良かった。
ゴールデン街で飲んだことはないのだが、昼間に路地を歩いたことがあり、日中に一歩足を踏み入れただけでも異様な雰囲気を感じさせる独特の場所だと感じたのだが、映画では上空からのゴールデン街の映像もあり、それは見事なバラック屋根で、まさか現代の東京の中心地にこんな場所がまだ残っているのか!と驚いてしまった。
なお、都市伝説となっているような市井の人を描いたドキュメンタリー映画で真っ先に思い出すのは『ヨコハマメリー』だが、この作品ではメリーさん自身のインタビューは一切なく、ラストで初めて晩年の姿を垣間見ることができるものの、本人の語りは一切ない。
メリーさんを知る人たちのインタビューのみで、彼女と、彼女が生きた時代と、ヨコハマという街を浮き彫りにする作品であったため、ある種のミステリアスさとノスタルジック、情緒を感じさせる良質なドキュメンタリー作品だった。
対して『新宿タイガー』では、タイガー自身の饒舌な語りやネットなど様々な情報から、彼がどんな人物であるのかは全て詳(つまび)らかになっているし、そもそも舞台は雑多でせわしない、眠らない街・新宿だ。
『ヨコハマメリー』のような情緒を本作からは感じようとするのは難しい。しかもタイガーは今でも現役で活躍されている、現在進行形の伝説なのだから。
しかし、新宿にはこんな男がいて、こんな活動をしているんだと記録することにはとても意味があると思うし、後年、この作品はもっと意味を持つだろうし、
そして、この作品を新宿の映画館で観ることに、大いに意義を感じてしまった。
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