okurejeの日記

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『三島由紀夫vs東大全共闘〜50年目の真実〜』 感想

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市谷駐屯地での割腹自殺事件のわずか1年半前、1969年5月13日に東大駒場キャンパスで行われた、三島由紀夫と東大全共闘の学生達との伝説の討論会を、高精細映像で復元して映画化した作品。

50年ぶりにTBS緑山スタジオの倉庫から発見された映像のドキュメンタリー映画化に尽力したのは、現在公開中の『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』の主役、鈴木邦男氏だったそうだ。

 

 

劇場の大スクリーンで観る三島はなんともカッコよくて、しかも学生から挑発的で無礼な態度で接せられても少しも激昂せず、終始冷静に議論しようとする大人の態度にも魅了された。

・・ただ、三島と学生たちの議論の内容が、さっぱり意味がわからなかった。
テーマは国家、暴力、時間の連続性、政治と文学、天皇・・と至ってシンプルなんだけど、交わされるコトバの内容があまりに観念的すぎて、この人たち、本当に意味がわかって喋ってるのか?と思うくらい難解。ハッキリ言って、ほぼ理解できなかった。
さすが、日本の最高学府の卒業生と現役学生たちの議論はすごいな・・くらいな頭の悪い感想しか浮かばないので、いったい当時の学生たちは、なんでこんなにも難解な議論を熱くできたのか、少しでも当時の雰囲気を知りたく思い、こんな2冊を読んでみた。

 

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1冊は、中野翠『あのころ、早稲田で』 

あのころ、早稲田で (文春文庫)

あのころ、早稲田で (文春文庫)

  • 作者:翠, 中野
  • 発売日: 2020/03/10
  • メディア: 文庫
 

コラムニストの中野翠さんが、1965年前後に早稲田大学の学生だった頃の青春時代を振り返るエッセイ集。
高校時代からマルクスを読みかじり、「立派な左翼」になるべく早稲田大学の第一政経学部経済学科に入学したが(後になって文学部に入学しなかったことを後悔されたという)、学生運動に共鳴しつつも、イマイチ闘争運動にのめり込むことができず迷走していた学生生活と、当時の殺伐としつつも、どこかのどかな雰囲気も感じさせるような時代の空気を、軽やかな筆致で振り返っていて、当時の学生たちの思考や指向、雰囲気が伝わってくるエッセイだった。
当時は学生運動が最盛期だったが、文化的にはサブカルチャーやポップカルチャーが花開いた時代でもあって、日本が次の新しい時代に向かう変節の時期だったこともよくわかった。

そして当時の若者たちの多くが、政治や、国を指導する上の世代の大人たちに反感を持ち、真剣に考え、真剣に反抗していた時代だったんだな、と改めて理解できた。

 

2冊目は、桐野夏生『夜の谷を行く』 

夜の谷を行く (文春文庫)

夜の谷を行く (文春文庫)

 

1971年から1972年に連合赤軍が起こした「山岳ベース事件」をテーマにした小説。
60年代がピークだった学生運動の活動家たちが、その最終期にさらに過激化し、テロも辞さない「連合赤軍」となって、「あさま山荘事件」を起こして日本中を震撼させた。
そんな彼らが、群馬県の山中で起こした同士に対するリンチ事件で、12名の若者が命を落とした。
主人公は、連合赤軍のリーダー格だった永田洋子から目をかけられていたが、山岳ベースでのあまりにも悲惨な状況に嫌気し、逃亡した独身女性、西田啓子が主人公。
啓子は逃亡中に警察に逮捕され、5年間の服役を終え出所後は他人と極力接触せずひっそりと暮らしていたが、2011年2月に永田洋子が獄中死し、3月に東日本大震災が発生した後、なぜか封印した連合赤軍事件の記憶を掘り起こす出来事が彼女の身に降りかかってくる。

学生運動に熱中し、行きつくところまで突っ走ってしまった当時の若者の心情と行動が、既に現代人には理解し難い「得体のしれないもの」になってしまっていることを実感させるような作品だった。

(・・それにしても、桐野夏生氏の小説を久しぶりん読んだが、相変わらず一般のおばちゃん達の会話のリアルさがハンパなかったな・・)

 

なお『あのころ、早稲田で』で中野翠さんは、事件当時は既に社会人だったが、「山岳ベース事件」にはかなり強いショックを受けたと書かれていた。彼らと同じ行動を起こすことはありえなかったが、同じ左翼学生として、”ハッキリと「負けた」”と感じられたという。
そして70年代以降、連合赤軍の事件を最後に、学生運動は社会から消え去ったかのように衰退していく。

 

ちなみに自分の大学時代の話。

細かいことは殆ど記憶にないが、一般教養のドイツ語の授業でなぜか講師が「昔と今の大学生の違いは何だと思うか?」と学生に質問した。
「昔の学生は今よりもマジメに勉強してたと思う」、「昔の学生はコンパをやっていなかった」といった回答のなか自分は(深い考えもなく)「昔の学生は学生運動をしていたが、今の学生はしない」と答えたら、講師は「わが意を得たり」みたいな表情になった。
どういう意図でこんな質問をされたのかよくわからなかったし、その講師も若い方で明らかに学生運動世代ではなかったが、当時(80年代後期のバブル絶頂期)の学生たちを教えながら、色々と思うところがあったのかもしれない。

 

『三島由紀夫vs東大全共闘〜50年目の真実〜』に戻るが、当時の討論会で司会進行役を務めたガクラン姿の学生、木村修氏の現在のインタビューで、「今の人には信じられないかもしれないが、当時の世の中の雰囲気は、本当に明日にでも革命が起きるのではないか、と本気でみんな思っていた。」と語られていた。
まさに熱狂と狂乱の時代だったと思うが、多くの死者を出した学生運動が正しかったのか、自決した三島が正しかったのか、現代になっても正否の判断は人それぞれだと思うが、少なくとも思考を停止してしまった自分を含む多くの現代人よりは、彼らの生き方はカッコいいのではないだろうか。

 


【公式】『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』3.20(金)公開/本予告

 


三島由紀夫・伝説の討論会1/5 50年ぶり秘蔵映像発掘「VS東大全共闘」#1「近代ゴリラ」

 

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あのころ、早稲田で (文春文庫)

あのころ、早稲田で (文春文庫)

  • 作者:翠, 中野
  • 発売日: 2020/03/10
  • メディア: 文庫
 
あのころ、早稲田で

あのころ、早稲田で

  • 作者:翠, 中野
  • 発売日: 2017/04/12
  • メディア: 単行本
 
夜の谷を行く (文春文庫)

夜の谷を行く (文春文庫)

 

 

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