『スペシャルズ!~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~』
本国おフランスでの原題は『Hors Normes』で、”基準外”とか”規範を脱した”といった意味らしい。なので邦題を米国版の『The Spesials』にならうのはいいとして、『スペシャルズ!』と”!エクスクラメーションマーク”まで付けちゃう始末。しかも副題が「~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~」なんて、もう「転生したらスライムでかつデイケアNGO職員だった」みたいな「なろう系」かよ!
あげくにポスターには「愛はどうだ!」なんて押しつけがましいコピーまで書かれてて、なんともクソ暑っ苦しい煽りなんだけど・・・作品自体はとても興味深い内容だった。
ストーリーは実話をもとに製作されていて、重度の自閉症患者のデイケアを行うNGO施設「正義の声」の経営者と、彼をサポートする友人の日常を軸に、当局から施設閉鎖を迫られた顛末を描く物語。
自閉症患者をケアするフランス政府公認の施設はあるが、症状が重い患者は意図的に受け入れを拒否されたり、受け入れたとしても監禁して薬物を過剰投与する施設すら存在する。そんな状況で行き場のない自閉症患者を制限なく受け入れようと、ブリューノ(ヴァンサン・カッセル)はNGO施設を立ち上げ、友人であるマリック(レダ・カテブ)は、貧困地区で路頭に迷う若者たちを支援する施設の代表で、ドロップアウトした若者たちをブリューノの施設で自閉症患者の世話をする支援士として教育する活動を行っている。
しかし彼らは常に「金ない、ヒマない、周囲の理解もない」の3重苦で昼も夜もなく働きながら、ついにはフランス政府当局から、未認可の施設で、しかも正式な資格を持っていない若者を自閉症患者の支援士として雇用するのはけしからん!という理由で施設の閉鎖を求められてしまう。
逃げ出したり暴れて暴力を振るったりもする自閉症患者のデイケアだけでも大変なのに、患者の支援士をさせている若者たちもまた、まともにレポートが書けなかったり根気が無かったりと、社会人として自立していない者も多く、マリックは厳しさと優しさを両立させながら彼らを教育しなければならない。なお彼らの多くが移民系なのも、世界中の先進国の実態をリアルに描いているな、と思った。
ラスト近く、毎日ヘロヘロになりながら奔走しているブリューノがついに当局の監察官に「わかった!閉鎖するからその代わり、意思疎通もまともにできない彼や、暴力を振るう彼、目を離すと脱走する彼女、全ての患者たちを責任持ってちゃんと引き取ってくれ!」と、つい怒鳴り散らしてしまうシーンには、胸に迫るものがあった。
そして本作が素晴らしいのは、まったく「お涙頂戴映画」に仕上げていないこと。
・・これが邦画やハリウッド映画だったら、絶対に泣かせる演出をして「自閉症患者と支援士との感動の物語」に仕立てて、「こんな夜更けに自閉かよ!」みたいな作品にするに決まっている。
そもそも自閉症患者の問題については、我々のような当事者ではない人間が安易に回答なんて出せない「人類の課題」みたいなものなので、単に彼らの日常を淡々とドキュメントのように描いている本作のほうが、「この映画よかったねー、感動したねー、泣けたねー」で終わってしまうような映画より、よほど心に残るような気がする。
こういうシニカルで現実的な視点が、さすがおフランス映画、って感じがするし、こんな地味目な作品がおフランス国内ではヒットしたというのも、なかなか成熟したお国柄なんだな、と感じる。
なお、そもそもこの作品を観ようと思った動機は、元妻のモニカ・ベルッチと華々しく共演した『ドーベルマン』から20年、ヴァンサン・カッセルもすっかりいい感じのオッチャンになっちゃって、そんな彼が、こういったヒューマンチックな映画でどんな演技をするんだろう、と興味をそそられたからなんだけど、ヨレヨレの格好でいつも自閉症患者の子達のために奔走するオッサンの役をリアルに演じていて、さすが!となってしまった。
いかにも泣かしてくれそうな映画なのでソレを期待して行っても外されるかもだけど、じわ~んとくるいい映画です。
【公式】『スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~』/9/11(金)公開/本予告