okurejeの日記

フィギュアや映画や本などについて、ゆるく書かせていただきます。

『すずめの戸締まり』 感想

 

新海誠監督の作品は全作品を観たことはないが、今まで観た作品はファンタジーではあれど、異形のキャラクターなんて出てこなかった気がする。しかし新作の予告編では、やたら目がデカい言葉をしゃべるネコや、動き回る壊れた椅子など、人ならぬモノが出てきてて、なんかジブリっぽくて嫌だな・・と思ってしまった。

 

 

・・なので気が進まないまま、それでもIMAXで鑑賞したワケだけど、観ている最中も納得いかない点がいくつかあって。

まず、ヒロインの鈴芽(すずめ)が異界の扉を開けて、しかも要石(かなめいし)を引き抜いて厄災を招いた張本人であるにも関わらず、「閉じ師」である草太(そうた)にその失敗をすぐに報告しなかったことにイライラしてしまった。自分を守るためにケガをした草太を自宅に連れてくる間に、一通りの事情を話す機会があったろうに、なぜ話さなかったのか。
次に、引き抜いてしまった要石がネコに変化して逃亡したあと、ネコを見かけた一般人がツイッターで次々にネコとの遭遇を写真付きでアップするのだが、あのネコのビジュアルのどこを見て「ダイジンみたい」と思ったのかよくわからないが、“#ダイジンといっしょ”というハッシュタグで話題になる。言わば、あのネコに「ダイジン」と名付けたのはネット民なのにも関わらず、先祖代々「閉じ師」を生業としている草太が、そのツイートを見てから、なんのためらいもなくネコに向かって「ダイジン!」と呼び掛けているのが不思議でしょうがなかった。
アンタにとっては「ダイジン」じゃなくて「要石」でしょ??・・と。

そして、鈴芽の形見である古びた子供用の椅子に姿を変えられた草太だが、どう考えてもその形態では、”災い”をもたらす扉を閉めながら祝詞を唱えて鍵をかける動作をワンオペで出来るハズがないのに、最初は鈴芽の助けを拒否したのがワケがわからなかった。自分で何もできないのに、なぜ多くの人を死なせないような大役を担っていながら、助けを借りようとしなかったのか・・
あとは多くの人も指摘しているが、鈴芽が命を懸けて助けたいと思うほどに草太を好きになった経緯が不明過ぎて、そもそも人間態で触れ合ったのは初対面から1時間程度だけで、あとは椅子の姿の男を、いくら多感な17歳といってもそんなに簡単に好きになるものだろうか・・という根本的な疑問は拭えない。

そりゃ、新海監督の脳内では補完されて辻褄があっているんだろうが、観客が理解できるまでにストーリーに落とし込まれてないような気がした。ちょっと雑な展開と感じてしまう。

また、「ミミズ」や、「サダイジン」が変化した巨大ネコのビジュアルが「もののけ姫」に出てたようなクリーチャーっぽくて、全体的に過去の新海監督作品や、その他の作品で観たような既視感ある作品だったという印象も受けた。

 

 

そしてラスト。
正直あまり興味が無かった作品なので事前情報もチェックしておらず、この物語は「3.11」がメインテーマであることに、最後まで気が付けなかった。
あの大震災から既に10年以上も経ってしまったのだが、それでも我々のなかでは未だに忘れがたい大厄災であり、物語として表現するにはまだまだナイーブな題材なのではなかろうか。ちょっとあざといのではないだろうか、とも正直、思ってしまった。
そうは言っても、やはりラストシーンでは泣けてしまったが・・・

ということで、鑑賞直後までは一口に面白い作品とは思わなかったのだけど、時間が経つほどにジワジワと考えさせられるものがあり、なかなかどうして、深い作品なのではないか?と思い直してしまった。『気の名は。』や『天気の子』とはまた違った、切なさが込み上げてくる作品・・

 

 

なお、入場者プレゼントとして無料で劇場で配布された、新海監督による企画書全文などが掲載された「新海誠本」を読んで、新海監督が、「3.11」を扱うことによるリスクを十分予想しながらも、この作品で訴求したかった思いが少し理解できた。実際に作品を鑑賞しながら、そのパワーがひしひしと伝わってきた気がする。
本作では廃墟が主な舞台となっているが、この作品は「場所を悼む物語」にしたかったとのこと。
「全国の様々な場所に行った際に、かつてはにぎやかだったのに現在は廃れている場所を見るにつけ、何かを始めるときは地鎮祭のような祈祷の儀式を行うのに、何かが終わっていくときは何もやらないのは何故か。人にはお葬式があるのに土地や街にはない」と書かれており、なるほどな・・と。

映画館での上映回数のあまりの多さや、やはり「3.11」を扱ったことに対する非難もあり、必ずしも賛否の賛ばかりではないけど、少なくとも上映回数のせいで割を食ったと言われる『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の数倍は心に残る作品だったし、日本で作られた映画としては優秀な作品だと思う。
知識不足の初回で感じた小さなモヤモヤが、再見することで変わるのか・・落ち着いたら、改めて劇場で再度鑑賞したいと思う作品ではあった。

 

 

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