okurejeの日記

フィギュアや映画や本などについて、ゆるく書かせていただきます。

「ウォン・カーウァイ+」『グランド・マスター』 感想

 

香港映画にはカンフー映画とキョンシーしかないと思っていた世界常識を覆したのがウォン・カーウァイ監督。

・・といっても自分は『花様年華』しか観たことないんだけど、『花様年華』は紛れもない世界レベルの名作に位置付けられるアート作品で、そんなアーティスティック映画の監督がなぜにカンフー映画を、しかも既にドニー・イェンが決定版ともいえる作品を世に出した後に、なぜイップ・マンの映画を?

2013年当時、とにかくクエッションだらけで観に行った『グランド・マスター』は、このあと長く印象に残る作品になってしまった。

 

『WKW4K ウォン・カーウァイ4K 5作品』を観ずに、おまけで上映されたような『グランド・マスター』だけを観に行くのもどうかと思ったが、久しぶりに大画面で観たかった!
そしてさすが立川シネマシティの極上音響上映。ウォン・カーウァイ監督の耽美的なカンフー映画を十分に堪能できた。

 

 

そして、久しぶりに当時買ったパンフレットを読み直してみたが(これが凄いボリューム)、この作品のために監督も役者も相当の時間を費やしてたことが書かれている。
本当にアクションも見事で映像も美しく、セットも完璧なので、世界的な有名監督でなければ作れない映画だと改めて感じたが、それにしても、こんなにも見事で流麗な映画って、最近観たことあったかな?と。
香港映画としてはビックバジェットだと思うが(約48億円)、予算だけならハリウッド映画が当然勝っている。それなのに、『グランド・マスター』ほど丁寧かつ綺麗な絵を見せてくれる作品は少ない。
冒頭のイップ・マンが雨の中で闘う名シーンだが、なんと夜間(19時から翌朝7時まで)ロケを50日もかけて撮っていたそうだ。もう黒澤明監督なみで、日本でも世界でも、今どきこれだけ狂った撮影を行う監督なんていないだろう。
そういえば2013年の『グランド・マスター』以降、ウォン・カーウァイ監督は自身の映画監督作を撮っていないが、だんだん世知辛なくなってきた世界状況で、監督が納得できる環境でなかなか作品を作れなくなってるのではないだろうか。

 

過去に何度か観返してきた作品だけど、今回は没入感が凄くて、ラスト近くのチャン・ツィイーのセリフ
「本当のことを言うと、あなたが好きだった。」
では、思わず涙ぐんでしまった。他のお客さんもこのシーンで泣いてる人が多かったな。

 

 

 

『川っぺりムコリッタ』 感想

 

劇場で邦画の予告を観るのが苦痛。
安易な漫画の実写化作品か若者向けの恋愛もの、もしくはテレビドラマの劇場版ばっかりで、予告が始まったらあえて目をそらして視界から外すようにしている。
・・まぁ、世界各国どこも同じで、本当に観るべき作品はその年に製作された全作品の2割程度に満たないだろう。わざわざ日本で公開される海外作品はその2割から選別されているので、どうしても自国の上映作品の方が数も多くなり、駄作が多いと感じてしまうのだけど、それにしてもつまらなそうな邦画が多い昨今。

そうは言っても日本映画の質は世界最高峰だと思っているし、そして、間違いなく、その日本映画史における名作のひとつに数えられるのが『かもめ食堂』で、その監督である荻上直子監督の最新作が、『川っぺりムコリッタ』

 

ということで、なんかワケのわからないタイトルで映画観た後も覚えられないんだけど、ジャケ買い感覚で本作を観てきたんだけど、端的に言って素晴らしい作品だった。

 

 

・・なんか暗い影を纏っている30歳前後の男(松山ケンイチ)が富山地方鉄道のとある駅に降り立ち、イカの塩辛工場に就職するシーンから本作は始まる。彼はどうも刑務所から出所して間もないようで、自分の今後の人生に明るい展望を持っていないながらも、とりあえず川べりの古びたアパートに入居して新しい生活を始めようとする。「ハイツムコリッタ」という、時間が止まったような安アパートに引っ越してきた初日、隣人だという、ちょっと図々しい男(ムロツヨシ)にいきなり訪問され、初対面だというのに「風呂を貸してくれ」と無茶な要求をされる。・・当然追い出すが、このアパートにはその他にもクセが強い住人や管理人もおり、見知らぬ土地で誰にも邪魔されず静かに暮らしたい。・・あわよくば、川の氾濫に呑まれて死んでしまいたいという、消極的な希死念慮も、ムロツヨシと彼の周りの住人のお陰であえなく潰えてしまう。。

 

ちょっとラストが、先週鑑賞した『NOPE/ノープ』のようでもあり、なんとなくイメージしていた荻上直子監督の作風と違って、まずテーマが重く、中盤以降も暗いストーリーでありながら、やはりホッとするような作品で、ファンタジー色も強くて、これは本当にいい映画だな、と観終わった後にしみじみと感じた。

 

そしてムロツヨシ。
福田雄一監督色が強すぎて、「もう福田雄一のムロツヨシはお腹一杯!みたくない!」と思わせるほど福田雄一臭が強い俳優さんだと思っていたが、やっとムロツヨシらしいムロツヨシの役柄を劇場で満喫することができて幸せだった。江口のり子の贅沢な使い方もすごく良くて、いいところしかない作品といえる。

 

なお、最初に本作を企画したときに映画化できなかったのが悔しくて眠れなかった荻上直子監督が、「じゃあ原作があれば映画化できるのか!」と思い立って書かれたという小説を、本日電子書籍版で読んだが、昨日観た映画の余韻を思い出して、ところどころ泣けてしまった。

過去に映画のノベライズを読んだ経験から、ノベライズは諸刃の剣で、作品の意図が深くわかる分、映画自体がちょっと物足りなく感じることも多々あったが、こちらの小説はいい塩梅に仕上がっていて、あくまで映画の良質なサブテキストの位置づけであり、主役は映画で、語り過ぎず、映像がよりよく印象に残る手立てとしての役割として機能していて、映画もノベライズもいいバランスで成り立っていた。

 


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荻上直子監督、いいよね。日本映画界の至宝。

 

 

 

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