okurejeの日記

フィギュアや映画や本などについて、ゆるく書かせていただきます。

『ヒルコ/妖怪ハンター レストア&リマスター版』 感想

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塚本晋也監督の第2作目で初のメジャー作品である『ヒルコ/妖怪ハンター』が、公開から30周年を記念してレストア&リマスター化され、テアトル新宿で公開されるということで、舞台挨拶つきの初回上映を鑑賞してきた。

 

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初めて本作を観たのは少なくとも初公開時の1991年ではなく、おそらくその10年後にリリースされたDVDを購入した際だったと思うが、かねがねこの名作をちゃんと劇場で鑑賞したいと思っていたので、本企画は何ともありがたかった。

だいたい諸星大二郎先生のコミックが映画化されるのが稀有なことだが、なんと塚本監督は、その代表作である妖怪ハンターシリーズの主人公・稗田礼二郎役に沢田研二を起用(ビジュアル・イメージが真逆!)、そしてあろうことか、ちょっとおっちょこちょいで三枚目のキャラクターに改編してしまう。劇中での稗田礼二郎は何とも頼りなく、しかもゴーストバスターズばりのチープな妖怪センサーや対妖怪兵器まで持ち出してヒルコと対決するという・・・諸星ファンとしては、まさに目を覆いたくなるような設定になっているにも関わらず、誰が観ても本作は諸星大二郎テイストが充満した作品で、しかもほろ苦い青春映画の名作にまでなっているという・・ 塚本晋也監督、恐るべし!である。

 

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初公開から30年も経過している作品ではあるが、改めての劇場鑑賞でも古さをあまり感じさせなかった。
ヒルコ視点のカメラワークは迫力があるし、何と言っても特殊メイク担当の織田尚(たかし)氏のヒルコは和テイスト満点の不気味な造形で、諸星大二郎っぽさが滲み出ている。諸星ファンとしても納得だと思う。

 

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役者さんも皆さんいい演技をされているが、不気味な用務員役の室田日出男は渋いし、なんといっても八部まさおを演じた工藤正貴の熱演は素晴らしい。そして、ついにヒルコに肉体を乗っ取られるシーンの竹中直人の顔芸は、もう笑っていいのか怖がっていいのか何度観ても判別がつかないほど衝撃的で、まさに、恐怖あり笑いあり涙ありのエンターテインメント作品である。何度でも観たくなる不思議な映画だ。

 

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舞台挨拶には織田尚氏が登壇されたが、通常、映画の舞台挨拶に造形師の方が出られるのは稀だと思うのだが、本作に関してはヒルコの造形が作品の魅力の多くを占めているので、氏の登壇は妥当だし、しかも、月島令子を演じた上野めぐみさんを舞台挨拶に呼ばれたのも織田尚氏であるという。20代後半に中国留学を機に役者業を引退されて久しい上野さんをこうして拝見できるだけでも貴重な舞台挨拶といえる。

 

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なお、塚本晋也監督の初期の名作であるこの作品、当然、販売される2Kレストア版のBluーrayも予約済みで、収録特典はDVDからの完全移植らしいので、じゃDVDは処分していいかと思ってたら、なんとDVDに収録されていた「絵コンテ付き本編」は未収録だという・・・ これじゃDVDを処分できないじゃないか!

 

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『ぼんとリンちゃん』 感想

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もう先月になってしまったが、渋谷シネクイントで開催されていた小林啓一監督作品特集上映より、舞台挨拶つき『ぼんとリンちゃん』を鑑賞した。

 

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『ぼんとリンちゃん』が劇場公開されたのは2014年9月。公開当時は作品について全然知らず、後に名作とのうわさを聞いてDVDを観たのだが、確かに面白い作品で、勢いでノベライズまで読んでしまったほど。

本作の魅力は何といっても、主人公の四谷夏子(通称"ぼん")を演じる佐倉絵麻さんの見事な腐女子演技と、透明感抜群の友田麟太郎(通称”リン”)を演じる高杉真宙クンと会田直人(通称”べびちゃん”)を演じる桃月庵白酒師匠との掛け合いだろう。


初めて観たのは2015年なんだけど、当時は今ほど腐女子の生態もポピュラーではなく、ボーカロイドによる楽曲もブレーク途中だったので、佐倉絵麻さんのリアルなオタク演技と初音ミクによる主題歌なども斬新だった。
もともと本作は、小林啓一監督の知り合いのオタクカップルの会話が独特で面白かったそうで、そこから発想を得た作品だそうだが、確かに劇中のぼんちゃんみたいな独特な話し方をする腐女子の女性なども実際にいるので、当時は物珍しさも感じた。
しかし現在ではオタクも腐女子もボーカロイドも当たり前に世間に浸透しているので、6年ぶりに本作を観てもさすがに真新しさは感じられなかった・・というかあからさまなオタク会話に最初は若干気恥ずかしさも感じた。そして、改めて観るとストーリーも唐突な感じがしないでもない。

 

物語は、「ぼんちゃん」こと大学生の四谷夏子と、彼女の幼馴染で1歳年下の浪人生、「リンちゃん」こと友田麟太郎が、共通の友人で東京に行ったきりの「肉便器」こと斉藤みゆを探しに東京に出てきたところから始まる。オンラインゲームで知り合ったオタクなサラリーマン「べびちゃん」こと会田直人に協力してもらいながら、不案内な東京で友人探しを行い、ついに彼女と再会することになったのだが・・・

 

そもそも、ぼんちゃんとリンちゃんがなぜ友人のみゆちゃん探しのために上京することになったのか、冒頭の字幕で簡単に説明されるのだが、短い文章だけでは今一つ深い事情がわからない。また、劇中で実際にみゆちゃんが登場するのはラストの再会シーンからなので、映画だけ観ていたら、みゆちゃんというキャラクターとぼんちゃんリンちゃんとの関係性もよく掴めない。

映画を観終わったあと、これも久しぶりにノベライズを読み返してみたのだが、小林監督が映画の一般公開前に書き上げたというノベライズ版では、映画本編のストーリーは後半、全編の半分以下で、多くがぼんとリンちゃん、みゆちゃんが親しくなるキッカケから、みゆちゃんの家庭が複雑で実家を出ざるを得ない事情、そしてついに上京して会いに行こうとする理由までしっかり描かれているので、『ぼんとリンちゃん』という作品すべてを理解するためには、ノベライズを読んで補完するしかない。

 

・・・だが、じゃあ今この作品を観てもたいして面白くないかというと全然そうではなくて、ぼんちゃんの徹底的な腐女子キャラは特異で楽しいし、高杉真宙クンの中性的な魅力は最高だし、今では押しも押されもせぬ落語会の至宝、桃月庵白酒師匠の当時のとぼけた演技は貴重。
自宅でもう1度鑑賞したくてBlu-rayも購入して再度観直したが、やはり自分はこの作品が好きなんだな・・と再認識した。

 

それにしても、初公開から7年ぶりの小林啓一監督と佐倉絵麻さんの舞台挨拶に立ち会えたのはラッキーだった。小林監督にとっては大事な長編2作目で、佐倉さんにとっては初主演という重みのある印象深い作品であり、両者の当時の思い入れが強く伝わってきた。

貴重な上映会だった。

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