okurejeの日記

フィギュアや映画や本などについて、ゆるく書かせていただきます。

『グリーンブック』 感想

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ソリの合わない2人の男が、旅を通して次第に熱い友情で結ばれていくロード・ムービーっぽくて、なんとなくロバート・デ・ニーロの『ミッドナイト・ラン』みたい!
しかも黒人差別問題がベースだという、まさに鬼に金棒みたいな映画で、これは面白そうだ、と思っていた矢先にアカデミー賞を受賞。
しかも、またまた白人が黒人問題を扱った作品にスパイク・リーが切れる!という鉄板の展開で。

だいたいスパイク・リーが以前に切れてたタランティーノの『ジャンゴ』だって、黒人奴隷に鬼畜の所業をしていた糞白人野郎どもを黒人ガンマンが容赦なくぶっ殺す痛快作品なんだから、そこまで怒らなくても!まぁちょっと餅つけ、スパイク兄貴!

 

ということで観てきました。

日本版の予告編を観たら、あまりの編集の巧さに、すごいドラマチックな物語なんだと思い、しかもアカデミーまで受賞しちゃったもんだから、相当な大作をイメージしてしまった。
妻などは、絶対大泣きしそうだと、いつもより余計にポケットティッシュを用意する始末。

 


【公式】『グリーンブック』3.1(金)公開/本予告

 

インテリでお金持ちのドン・シャーリー、アメリカ北部では著名な芸術家として誰からも高貴な扱いを受けているのに、アメリカ南部でのリサイタル・ツアーでは、やはり容赦のない黒人差別を受けてしまう。
そんな差別主義者の白人どもを、粗野だが人情に熱いイタリア男のトニー・リップが、腕っぷしにモノを言わせてガンガン叩きのめしていき、全くタイプの違う、しかも黒人と白人という人種の異なった男同士が、ついには熱い友情を交わしていく、涙ちょちょ切れ映画だと思っていたら・・
・・思ったよりも淡々とした物語だった。

 

確かに、ツアーが進んで南部の州に行けば行くほど黒人差別が激しくなるが、それほど過酷な目に合うわけでもないし(とは言っても何度も警察に留置されてしまうが)、トニーしても、それほど誰彼構わずボコボコにするワケでもない。
そもそもシャーリーにしても、黒人が南部に旅すれば、いくら著名人であっても不当な差別を受けるのは分かりきっているのに、なぜツアーを引き受けたのか、しかも白人が訪れるバーに一人で飲みにいったりなど、わざとトラブルを引き起こしてしまう理由が、イマイチ自分にはよく理解できなかった。

なお余談だが、劇中でシャーリーが留置されたと知らせを受けたトニーが警察に出向くと、シャリーが白人男性と2人で素っ裸で留置されていたシーンがあった。
観ていた時は知らなかったのだが、このシーンは同性愛を示唆していたらしい。
(シャーリーは過去に異性と結婚していたが、実は同性愛者だったそうである)

 

当時のアメリカの黒人差別の実態を生々しく見せつける作品でもなく、人種問題について大仰なテーマを提示する作品でもなく、しかも最後まで大泣きさせるドラマチックな作品でもない。
また少なくとも、スパイク・リーや他の黒人俳優などが非難するように、強い白人が弱者の黒人を守ってやる白人賛美映画でも少なくとも、ない。

いったい何を描きたかった作品なのか、観た直後はよくわからなかったのだが、後になって、ラストシーンから、本作のテーマにハタと気が付いた。

 

まずトニー・リップだが、当初は当時の白人男性の殆どがそうだったように、普通に黒人差別主義者だった。

トニーの妻が、当時としては珍しい先進的な女性だったようだが、自宅の配管工事か何かの作業に来ていた2人の黒人労働者に飲み物を振舞うが、それを見ていたトニーは、妻がいなくなった後に、彼らが使ったコップをゴミ箱に捨ててしまう。その後でゴミ箱を見て気付いた妻は、やはり何も言わずにコップを元に戻す。
当時の男たちに黒人差別を非難しても聞き入れないのが分かりきっていたからだ。
しかしラストシーン、ドン・シャーリーとの長旅を終えて帰ってきたトニーは、クリスマスの夜に突然訪ねてきたシャーリーを暖かく招き入れ、心から彼の訪問を喜ぶ。
不当な差別を受けても毅然とした態度を崩さなかったシャーリーを心から尊敬し、人種差別の愚かさを悟った夫の人間的な成長を、妻は嬉しそうに眺める。

 

そしてドン・シャーリー。
クリスマスの夜にはトニーを自宅に帰すと約束していたが、ツアーが終わったその日は大雪で、運転もままならない。さすがに疲れて果てて運転できなくなったトニーに代わってシャーリーが酷い大雪のなか運転し、トニーの自宅まで辿り着き、なんとかクリスマスの夜に彼を帰すことができた。
トニーは、是非自宅に入って家族に挨拶してくれと彼を引き留めようとするが、白人の団欒の中に自分が入っても、どうせ歓迎されないだろうと思い、一人で帰宅する。
しかし、帰宅して使用人を帰し、一人になってから急に孤独を感じてしまう。
シャーリーも、自身がインテリで富裕層であり、黒人とは言え大統領とも親しい間柄であるからか、どちらかというと非インテリ層や教養のない人間をバカにして、心の中では差別していた。
だが、粗野で教養はないが、誠実で人情に熱いトニーとの付き合いを通して、次第に自分のプライドが高すぎることを自覚する。
そして雑談のなかでトニー言われた「好きな人や大切な人がいたら、自分から会いに行くべきだ」という言葉を思い出し、変なプライドや黒人であるという引け目などを振り払って、勇気を出して再度、トニーの自宅に訪れようと決心する。

 

そう、この作品、人種差別問題を大仰に訴える作品でも感動大作でもなく、単に2人の男の成長譚として捉えると、すごくジワるし、腹落ちする。

 

ラスト、クリスマス・ナイトのトニー家での団欒シーン。
トニーの妻や子供たちだけでなく、親戚たちも集まって賑わっているなか、久しぶりに我が家に帰ってきたトニーは、旅の疲れもあるがなんだか元気がない。
そして口の悪いイタリア男らしく、親戚の誰かがトニーに「あのニガーはどうだった?」と聞いたら、「俺の前でニガーなんて言葉を使うな!」と怒りをあらわにして親戚をたしなめる。
それからしばらくして、お酒を持参して訪ねてきたシャーリーが食卓に突然現れると、家族親戚一同が、打って変わってシーンとなってしまうが、基本は陽気なイタリア人らしく親戚の誰かが、「おい!急いで彼の席を用意しろ!」と叫ぶと、再び食卓は賑やかになる。そして、それまで浮かない顔をしていたトニーは、本当に喜色満面になって、大雪のなか、わざわざ引き返して訪ねてきてくれたシャーリーを、心から嬉しそうに、強く抱きしめる。

このラストシーンを思い出したら、今更ながら泣けてしまった。

 

主演は人気者ヴィゴ・モーテンセンと、先日観た『アリータ: バトル・エンジェル』で中途半端な悪役をやらされていたマハーシャラ・アリ。
あのイケメンおじさんのヴィゴ・モーテンセンが、なんと役作りのため14キロだか20キロだか増量し、豪快でお腹ポッコリなイタリア男になりきったという、さすがの役者魂!

そしてマハーシャラ・アリだが、なんともいえない気品のある演技で、『アリータ: バトル・エンジェル』なんかで使うのはもったいないくらい、本当に素晴らしい役者さんだと思った。

 

あと、ヴィゴ・モーテンセンが演じたトニー・リップだが、彼は俳優や作家でもあって、なんと『ゴッドファーザー』や『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』、『フェイク』など、過去に自分が観た作品にいっぱい出てたらしいので、またまた驚いてしまった。

 

アカデミー受賞なんていう変な冠がついてしまったせいで感動巨編みたいなイメージになってしまったが、実話をもとにした気軽なロード・ムービーだと思って鑑賞すると、意外と深い作品だな、と思えるいい映画です。

 

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