okurejeの日記

フィギュアや映画や本などについて、ゆるく書かせていただきます。

『戦場のメリークリスマス 4K修復版』 感想

 

『戦場のメリークリスマス』は初公開時の劇場鑑賞から現在まで、折に触れて何度も観ているので、取り立てて劇場まで観に行く気もなかったのだが、ビートきよし師匠のトークショー付き上映会となれば話は別。新宿武蔵野館まで駆けつけた。

 

 

 

 

 

だいたいビートきよし師匠がラロトンガ島まで出向いて撮影に臨んでいたことすら最近まで知らなかったので、いったいどんな経緯で出演が決まり、どういったシーンが予定されていたのか知りたかったのだが、お話を聞いてもそこまではわからなかった。
ただ、番組で坊主頭にまでされて現地に行ったものの、1週間の滞在期間中、雨天で撮影もできず、ワンシーンしか撮影できなかったので大島渚監督から、「ギャラあげるからいっそのこと全部カットしましょう!」と言われて承諾されたとか。判然としなかったが、撮影されたシーンがカットされたというより、撮影すらされなかったというのが真相のよう。

 

 

また進行の樋口尚文監督が、同時期に公開された津山三十人殺しを題材にした映画『丑三つの村』の冒頭で出征する日本兵役で出演されていたが、『戦場のメリークリスマス』で坊主にされたことと何か関係があったのか質問されていたが、特に関連はなかったとのこと。

 

 

 

なおきよし師匠、なんども「この映画、観てもよく意味わかんないでしょ?皆さんわかってます?」と身も蓋もないことを仰っていたが・・・

・・いや、確かに。
本作、観念的な作風なので、万人に分かりやすい作品とは言えないだろう。
原作のローレンス・ヴァン・デル・ポスト『影の獄にて』を読んでいないのでなんとも言えないが、同じく男性の同性愛がテーマである大島渚監督の遺作『御法度』のほうが断然わかりやすく、かつエンタメ作品としても面白かった。
『御法度』は、司馬遼太郎の短編小説集『新選組血風録』の原作からそれほどストーリーが変更されていないが、『戦場のメリークリスマス』はどうだったんだろう。原作が既に入手できなくなっているので簡単に読めないのが残念。

約40年ぶりに劇場でじっくりと鑑賞したが、改めて観ると色々と粗も多い。
そもそも、なぜ坂本龍一演ずるヨノイ大尉が、デヴィッド・ボウイが演じるジャック・セリアズに一目惚れしてしまったのか。人を好きになる理由なんて色々とあると思うが、容姿に惹かれたのか、反抗的だが堂々とした態度に惹かれたのか・・
(いや、そもそも同性愛として惚れたのか、愛情ではなく人間性に惹かれたのか・・軍事法廷での坂本龍一の演技ではそこまで読み取れなかった)
とにかく、ヨノイが俘虜収容所であれだけ反抗的な態度を取ったセリアズをほぼお咎めなしにした理由が判然としないため、終始モヤっとした感じが残る作品ではある。
また、撮影期間がタイトであったこともあると思うが、シーンとシーンの繋ぎがスムーズでなく唐突感があったり、これも初サントラということでしょうがないとは思うが、曲の入り方がぎこちなかったりなど、違和感も多く感じた。

 

 

ビートきよし師匠のコメントに戻るが、「この映画、よく意味がわかんないから、みんな何度も観るんじゃないかな」と仰っていた。
また4K版のパンフレットに、大島渚監督のご子息でドキュメンタリー監督の大島新さんと坂本美雨さんの対談が掲載されており、その中で坂本美雨さんは、「父の日本語のセリフが全く聞き取れなかった」と語り、大島新さんが、「演技や撮影の方法など、どこかデコボコとしていて変な部分があるのに、確実に胸を打たれてしまうんです。」と語っていたが、本当に、わかりやすい映画でもなく、粗も多い作品なのに、それでも長きにわたってみんなに愛されており、不思議な魅力に満ちている映画だと思う。

 

 

・・そういえば、本作のラロトンガ島での撮影開始前に、過酷な現場の重圧に耐え兼ねたのか、照明技師であった加藤勉氏が失踪、現在まで見つかっていないという謎の事件もあったそうだ。帰国後の大島監督の雑なコメントが家族の怒りを買って訴訟を起こされる顛末となるなど、いかにも昭和チックな出来事だが、それにしてもあの小さな島で行方不明になって大捜索されても見つからなかったというのもスゴイ・・ というかこんな珍事件まで発生して、いろんな意味で『戦場のメリークリスマス』は凄い作品だ。。

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『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』 感想

 

何と言ってもミラマックスは『パルプ・フィクション』を世に出すという歴史に残る偉業を成した配給会社であり、クエンティン・タランティーノの盟友ハーヴェイ・ワインスタインはその創業者である。
なので当時、ワインスタインの性暴力事件のニュースはショッキングだったし、長年見て見ぬふりをしてきた、大好きな監督であるタランティーノにさえ不信感を感じたものだ。
・・いまでもQTに対してのネガティブなイメージは消えていない。ユマ・サーマンに衝突事故を起こさせた張本人でもあるし。

 

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ただ、#MeToo運動が世界的に広がるきっかけとなった歴史的な事件でありながら、ワインスタインの性加害がスクープされた経緯など、他国のニュースなのであまり詳細は知らなかった。
かつ、当のハリウッド映画業界自体がこの事件を映画化したということにも大いに興味をそそられ、公開前から本作については観たいと思っていた。

 

本作は、ニューヨーク・タイムズのミーガン・トゥーイとジョディ・カンターという二人の調査報道記者が、業界では公然の秘密であった映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの何十年にもわたる性暴力事件を、沈黙を強いられた被害者や関係者を丹念に取材し、気の遠くなるような情報収集や証拠固めを行って、ついに2017年、記事を公開するまでを描いた、ジャーナリストの実話を映画化した作品。

 

2人のジャーナリストが政府の極秘情報を暴露する実話を映画化した作品では、2017年のスティーヴン・スピルバーグ監督作『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』を思い出す。この作品も大いに見応えがあったが、本作『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』も、単なる原作の映画化にとどまらず、被害者の苦悩や記者の苦労がひしひしと伝わってくるような、ラストでは、思わずもらい泣きするほど、なんとも心に残る作品だった。
なお『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』はワシントン・ポストの記者の物語で、ニューヨーク・タイムズがライバル的に描かれていたが、『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』では、ワシントン・ポストとスクープ合戦を繰り広げていた点も臨場感があって面白かった。

 

それにしても、本作で改めてハーヴェイ・ワインスタインの悪辣ぶりをこれでもか!と再認識したが、劇中では、元ミラマックスの中国系の女性スタッフが、ワインスタインの性加害によるショックで自殺を考えるシーンがあった。
・・男性の身で考えると、性加害によって女性がどれほどの精神的ダメージを受けるのか、正直想像できないというか、自殺まで考えるってちょっと大袈裟では?・・不謹慎ではあるがそう思ってしまったのだけど、鑑賞後に、陸上自衛隊で性暴力を受けて、単独で告発した五ノ井(ごのい)里奈さんも、一時は自殺まで考えたこともある、という告白記事を読んで、自分自身の認識の甘さに恥じ入ってしまった。
男性の性加害のせいで女性の尊厳がどれほど傷付けられるのか。本当に真剣に考えないといけない。
なお、本作にも映像が出ていた、女優ローズ・マッゴーワンの元マネージャーがワインスタイン問題を苦に自殺したという事実もあり、ワインスタインは、本当に多くの女性の人生をズタボロにした。
2020年にワインスタインには禁固23年が言い渡されたが、いや、お前は死ぬまで娑婆に出てくんな!と心から思う。

ジョディ・カンターを演じたゾーイ・カザンと、ミーガン・トゥーイ役のキャリー・マリガン、どちらもいい演技をしてたけど、キャリー・マリガンは、『プロミシング・ヤング・ウーマン』は作品自体がダメダメ過ぎていい印象がなかったけど、この作品では役柄にピッタリで、とっても好印象だった。

 


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この事件をきっかけとした #MeToo運動から、特に職場などのコンプライアンスはかなり厳しくなって、世界はとても良くなったと思うけど、日本では未だに、アベ友の山口敬之氏による伊藤詩織さんの性加害についてはスルーされたままだ。
ワインスタイン報道から5年経って、事件も忘れかけてきたタイミングでこの映画が上映されることで、新たにワインスタインの悪行を世界が思い出すいい機会になればいいと思うし、日本国内でも、ありえない暴言を吐いてたアベ友の皆さんへの糾弾もますます進んで欲しいと思う。

 

 

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