okurejeの日記

フィギュアや映画や本などについて、ゆるく書かせていただきます。

『関心領域』 感想

 

『落下の解剖学』で主演を務めたザンドラ・ヒュラーが出演していることでも興味があった本作『関心領域』。
アウシュヴィッツ強制収容所の隣に淡々と暮らす家族の話、という大まかな情報しか知らずに観たんだけど、主人公の一家って、アウシュヴィッツ強制収容所の所長だったルドルフ・ヘスの家族だったんだ。
なお原作小説では、ルドルフ・ヘス一家を大まかなモデルとした架空の家族だったそうだが、本作ではルドルフ・ヘスをそのまま登場させている。

 

ちなみにナチス・ドイツには、2人のルドルフ・ヘスがいた。
1人はSS(親衛隊)の名誉SS大将であり、副総統だった「ルドルフ・ヴァルター・リヒャルト・ヘス」。
もう1人がSS中佐であり、本作の主人公、アウシュヴィッツ強制収容所(絶滅所)の初代所長の「ルドルフ・フェルディナント・ヘス」。
なお前者は戦後、ドイツの刑務所に終身刑で服役し、刑期中に93歳で自殺、現在ではネオナチの信奉対象となっているそうだ。後者は戦後すぐに、46歳で絞首刑となった。
2人のアドルフならぬ、2人のルドルフ。

 

隣のアウシュヴィッツ強制収容所では日々、捕虜となったユダヤ人やその他の人々が何千人と処刑され、その死体を焼く焼却炉からの煙が途絶えることがない日常で、何事もないように生活するルドルフ・ヘスの日常を淡々と描く手法がシュールで良かった。
特にザンドラ・ヒュラーが演じた、妻のヘートヴィヒ・ヘスがいい。
夫であるヘスのお陰で、異国のポーランドとは言え、広いハウス農園やプールまで完備した立派な邸宅で、何人もの召使を雇った裕福な生活を送り、アウシュヴィッツ暮らしを心底満喫している。
ヘスが栄転とは言え、所長を退任することを聞いて激怒、「あんた一人で単身赴任しれ!」と夫に言い放つ身勝手さには笑ってしまった。
ルドルフ・ヘス本人も、まぁ淡々としていて、毎日何千人も殺している当事者なのに、平日は卒なく業務をこなし、休日は家族と過ごし、収容所退任の知らせを、「妻に言ったら怒るだろうなぁ・・」と心配している普通の夫。直接的なシーンは無かったが、収容所の自分のオフィスに女性捕虜を入れて性虐待したあと、自分の股間を神経質に拭き取ってから自宅に戻るという、妙なキモさがまた・・
(鑑賞後に知ったが、収容所と自宅が地下通路で繋がっていたそうだ。鑑賞時は全く気が付かなかった。)

 

 


ただ本作、A24作品らしく?、ちょっと抽象的でわかりづらいシーンも多かった。
特に、モノクロというか白黒反転したような映像で描かれた少女の意味が分からず・・
鑑賞後に調べたら、彼女は実在したポーランド人の少女で、俘虜のために、強制収容所の作業場に密かにリンゴなどの作物を置いていたそうで、ジョナサン・グレイザー監督が取材した後に亡くなったという。
(アレクサンドラ・ビストロン・コロジエイジチェックという名前の女性)

ラストに、なぜかルドルフ・ヘスがえずくシーンがあったが、あれは少々あざとい気もしたけど、直接的な虐殺シーンなどを一切描かず、終始淡々とストーリーを進行する演出は、抑揚が少なく平坦過ぎるかな、とも思ったが、観終わったあとにじわじわくる作品だった。

なお鑑賞後に見つけた、ルドルフ・ヘスの家族の戦後がわかる、ハナママゴンさんのブログ。
とっても興味深い内容だった。

blog.goo.ne.jp

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こちらのブログも、現在のアウシュビッツの様子がわかって面白かった。

namie-kuis.hatenablog.com

 

先ほどのブログとこのインタビューを読むと、まさに『ミステリと言う勿れ』の名言。「真実は一つではなく、人の数だけある。」と思わざるを得ない。

news.yahoo.co.jp

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