okurejeの日記

フィギュアや映画や本などについて、ゆるく書かせていただきます。

『逃げきれた夢』 感想

 

ありとあらゆる映画やドラマで見かける光石研だが、ここ何年かで特に印象に残っている作品といえば、ドラマでは『デザイナー 渋井直人の休日』。映画だと『アウトレイジ ビヨンド』。
どちらかと言えば優柔不断で気の優しいオジサン役が多いので、『デザイナー 渋井直人の休日』などはまさにハマり役だったが、『アウトレイジ ビヨンド』のヤクザの古参幹部役というのには驚いた。なんで光石研が極道役なんだと・・
それでも、なんら違和感なく、ちょっと日和見的なヤクザを危なげなく演ずる名優。

 

 

 

そんな光石研の主演映画だということで、どんな作品なのか事前リサーチすることなく観に来てしまった。

 

 

主人公は北九州のとある高校の教頭を務めており、妻と一人娘と暮らしており、認知症の父親は介護施設で暮らしている。そんな主人公の日常を淡々と描いている作品のように感じるが、ストーリーに大きな起伏はなく、物語の着地点も特に示されないので、ある程度の事前知識を仕入れないと、ちょっと戸惑うかもしれない。

冒頭、主人公が介護施設に父親を見舞うシーンから始まる。父親は認知症がかなり進んでいるのか、息子にも全く反応せず、話すことすら出来ないらしい。
次は自宅にて。
主人公が娘に「今、彼氏はいるの?」など、何やら普段とは違った態度で話しかけて不審がられる。
妻にも、急にスキンシップを求めて拒否されるのだが、娘や妻と同様、観ているこちらも、何で急に主人公は、家族が戸惑うような、普段とは違った会話をするのか、よく意味が呑み込めなかった。

中盤以降、仕事をズル休みした主人公が、松重豊が演じる旧友の仕事場にいきなり出向いて、二人で久しぶりに会食するシーンがあるのだが、主人公がなぜ、突然旧友を訪ねたのかも、作中で特に説明はない。

また、主人公のかつての教え子と思われる女性が働いている定食屋で昼食を取るシーンがあるのだが、会計をせずに店を出てしまい、教え子が外まで追いかけて会計がまだなことを伝える。主人公は「ごめんごめん」と言いながら財布からお金を出すのだが、話しているうちに結局、お金を自分のポケットにしまって立ち去ってしまう。

・・もしかしたら主人公は、軽い記憶障害があるのだろうか?。
その後、医師から何かの病気の検査結果を伝えられるシーンもあるのだが(頭部のレントゲン写真が見えるので、やはり記憶障害の病気なのか?)、具体的な病名は語られないまま病院のシーンも終わってしまう。
結局、全編を通して、主人公が軽度の認知症か?と思われるシーンは、定食屋で会計をしなかったシーンのみだったので、もしかして会計せずに店を出たのはワザとだったのか?とも思えてしまった。

そして物語は、特に大きなイベントも起らないまま、静かにエンド・クレジットを迎える。

 

このように抑揚のない作品ではあるのだが、では退屈な作品かと言うと決してそうではない。

舞台は北九州市八幡西区という主演俳優のリアル故郷。

昭和の香りが残る、味わい深いロケーションで、名優・光石研が淡々と演技する。もうそれだけでありがたい、というか、セリフや脚本も大げさなものでなく、ドキュメンタリーのような流れで進んでいくのもいい。
なにより、主人公の性格がいったい、いい人なのか薄っぺらい人なのか、実は腹黒い人なのか、なかなか掴ませないところも、ミステリアスで良かった。

 

 

 

・・ということで、パンフレットを購入して読んでみて、ようやく合点がいった。
やはり主人公は、記憶障害を患っていようだ(いまさら!)。
そして不思議だったのが、なぜ主人公は教員なのに、度々、教え子の働く定食屋でランチを食べているのか。
学校の食堂らしき場所で、生徒と話しながらランチを食べているシーンもあるのに何故?と疑問だったが、主人公が教頭を務める学校は、定時制高校だったのか!
・・なるほど、定時制高校なので、律儀に元教え子の職場でランチを取ってから出勤するという設定なのか。
学校の食堂で学生と食べていたのは、夕食なのかもしれない。
家族に突然、普段と違う会話をしてみたり、不意に旧友を訪ねたのも、記憶障害であると診断された自分自身を見つめ直して、身近な人たちとの関係性をも再確認したかったからなのか・・
とにかく、観客に必要最低限な情報と思われる設定も、あえてセリフで語らせないという徹底ぶり。

なので観客は、本作を鑑賞前には、必要最低限な情報だけは知っておくべきだと思いました。
「主人公は「定時制」高校の教頭で、初期の記憶障害を患っている」
・・これだけを事前に認識していれば、作品をより理解できる。

 

 

なお本作のもう一つの見どころは、同じく九州出身である名優・松重豊が演じる主人公の旧友と、主人公との掛け合い。
「しゃあしい(うるさい)!しゃあしい!」を連発し、顔つきまで地方のオジサンのように朴訥になってしまって、そこまで役を作らないといけないのか!と心配してしまうほどリアルな演技は見もの。

 

 

舞台挨拶では、光石研が好き過ぎて、当て書きで映画を作ってしまった二ノ宮隆太郎監督に、サプライズで光石研が監督あての手紙を朗読したのだが、その内容が感動的で、思わずこちらももらい泣きしてしまった。


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お嬢ちゃん

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