okurejeの日記

フィギュアや映画や本などについて、ゆるく書かせていただきます。

『波紋』 感想

 

荻上直子監督の最新作が上映されているなんて思いもよらず、危うくスルーしてしまうところだった。
あぶないあぶない・・

そもそも前作『川っぺりムコリッタ』が上映されてから、まだ1年も経っていない。
今の時代、荻上監督作品のような作家性が高い映画なんて、そう簡単に制作できないと勝手に思っていたので、1年も経ずに最新作が上映されるなんて思ってもみなかった。
だいたい今の邦画は、テレビドラマの劇場版か少女漫画原作みたいな恋愛もの、アニメばっかりなので、2年連続で荻上作品を劇場で観れるということは、日本の映画業界もまだ捨てたものではない、ということだろうか。

さて本作、新興宗教に入信している主婦が主人公の映画らしいが、題材や雰囲気が、今までの荻上直子監督とは違うテイストなので、余計に気付きにくかった。
基本的には『かもめ食堂』、『めがね』みたいに、登場人物はそれぞれ、心に悲しみを抱えていたりするが、作品自体はほのぼのとした「癒し系」な作品が多いイメージで、昨年の『川っぺりムコリッタ』では、主人公が心に抱える闇はかなり深くて、全体的に暗いイメージではあったが、それでもゆったりと落ち着いた作品に仕上がっていた。
しかし本作、題名からして重い感じで、ましてや新興宗教がらみの作品ということで、どうやっても「ほのぼの」にも「癒し系」にもなり様がない気がする。ただ鑑賞後にネットで荻上監督のインタビュー記事を読んだが、やはり監督自身も、「あの『かもめ食堂』の癒し系映画の監督」、と言われるのにかなり抵抗があったそうで、本作『波紋』では、自身の邪悪な部分を投入した作品に仕上げたそうだ。

 

物語は、東日本大震災が発生した2011年から始まる。
当時は東京でも放射能被害が恐れられ、水道水は極力飲まず、みなペットボトルの水を我先に買い求めていた。
筒井真理子が演じる主婦・須藤依子は、寝たきりの義父の介護を行いながら、光石研が演じる夫の修と、磯村勇斗が演じる一人息子の拓哉の夕食を用意するが、庭の花壇に水をやっていた修が、なぜか姿を消していた。理由は不明だが、その日から失踪したようである・・
それから数年後。
依子は、義父の介護を押し付けて勝手に姿を消した夫に絶望したためか、「緑命会」という怪しげな新興宗教の信者となっており、息子は大学進学と共に他県に引っ越したままで、義父を看取ったあとはスーパーのレジ打ちをしながら、夫が残していった一軒家に一人静かに暮らしていた。
そんなある日、うらぶれた姿で、ひょっこり夫が帰ってきた。
今更どの面下げて帰ってきたのかと憤りを隠せなかったが、ガンになったと言われて追い出すに追い出せず、渋々同居することに。さらに、未承認の治療を行いたいので、150万円を用立てて欲しいと身勝手な要求までされて、内心の怒りが収まらない。
また、久しぶりに一人息子が帰省するというので嬉々として御馳走を用意していたが、事前に何の連絡もなく彼女を伴って現れ、おそらく結婚の約束をしていると思われるその女性は聴覚障害者で、しかも拓哉の6歳年上だという。
一人静かに信仰とともに暮らしていた依子だったが、夫の帰還を境に次々と理不尽な目に合って、信仰では抑えきれないドス黒い怒りが心に蓄積されていく・・

 

まぁなかなかに攻めた作品で、特に、実際に耳が不自由な女優・津田絵理奈が演じた、拓哉の恋人である珠美のシーンが印象的だった。
なんの事前連絡もなくいきなり彼女を実家に連れてきていっしょに泊まると言われ、しかも自分は仕事なので彼女の世話まで言いつけられて憤慨する気持ちはわかるが、それでも単刀直入に「息子とは別れてくれ」と頼み込むのも凄い・・
しかも理由は、息子より年上だというだけでなく、障害が子供に遺伝することを心配するという・・
木野花が演じる、スーパーの同僚で親しくなった水木から、「あんたもなかなかストレートに差別するねー(笑)」と言われるシーンでは、こちらも思わず笑ってしまった。
「他人への寛容」と「自己犠牲」を説く宗教を、何のためにやってるのかと。

このように全編、ブラックな調子でストーリーは進んでいくのだが、かといって暗くて救いのない作品ではなく、やはりなんとなく、凄みはあったがいつものおとぼけ味もある、荻上直子監督でもあった。

それにしても本作では、名優がゾロゾロと出演していて、しかも、いかにもな役柄をいかにも巧く演じられているので嫌味なほどなんだけど、荻上監督は、「演出に自信がないので、芝居が上手い人でないと私の映画は成立しないんです。」と語っている。
しかし、名優は揃えたくても簡単に揃うものでもないし、名優が揃ってもいい作品が出来るわけでもないので、そこはやはり荻上監督の稀有な才能なので、やはり荻上監督には今後も毎年、新作を撮ってもらいたいと切に願う。


www.youtube.com

 

【スポンサーリンク】