『マミー』　感想 - okurejeの日記

二村真弘監督の初監督作である、話題のドキュメンタリー映画『マミー』を観てきた。

「和歌山毒物カレー事件」と言えば発生当時、さんざんテレビで報道されていたので当然知っているし、1998年の事件発生当時から現在までも、折に触れメディアなどで目にする機会のある事件だが、今現在はどうなっているのか、よく考えたら詳細は知らなかった。

ただ、昨年物故された「一水会」元代表の鈴木邦男氏が、林眞須美さんの無実を信じて活動されていると2、3年前に聞いて、鈴木さんがそう思われているのなら冤罪なのかな、と何となくは思ってはいた。
そこへ持って来て今年の5月に、「飯塚事件」を扱ったドキュメンタリー作品『正義の行方』を鑑賞。
本作『マミー』も、「和歌山毒物カレー事件」の冤罪疑惑を扱った作品とのことで、俄然、興味をそそられてしまった。

渋谷のシアター・イメージフォーラムでの鑑賞は初めて。
現在は都内では本映画館でしか上映していないこともあるだろうが、満員御礼だったのは、本作の関心が高い証左なんだろう。

ドキュメンタリー作品ながら、映像や演出がちょっとアートっぽくなっていて、事件概要や登場人物の紹介などの字幕説明やナレーションによる解説等が殆どない。
よく知っている事件とは言え、本当にざっくりした記憶しかないため、改めてどんな事件だったのか詳細に解説してくれることを期待していたのだが、そこは期待と外れてしまった。

なので最初に登場した車椅子のおっちゃんが、本事件のキーマンである、林眞須美さんの夫の林健治さんとは気づかず、てっきり林眞須美さんの父親かと思ってしまった。
冒頭から説明が少ないため、関係者のインタビュー映像にもちょっと身が入らず、正直、中盤までは何度か意識が飛んでしまったのだが・・
・・中盤から、例のキーマン、林健治さんが、あっけらかんと凄いことを語りだした。

それで俄然目が覚めて、いやでも作品に引き込まれてしまう。

まぁ何と言っても、林健治さんが凄い。・・というか、和歌山とはいえ関西地方である。
当時の林家の事件関係の登場人物の誰もが、いかにも関西人らしい（偏見！）、色んな意味でいい加減なキャラクターというか、叩いたらホコリが出るどころの騒ぎではないくらいハチャメチャぶり。
例えば林健治さん、林眞須美さんの母親の保険金1億4千万円のうち4千万円をギャンブルであっという間に溶かしてしまったとか、妻の眞須美さんにヒ素を飲まされたのではなく、当時の生業であたシロアリ駆除で使用していたヒ素を、保険金欲しさに自分からペロッと舐めたとか・・しかも何度も・・
それゆえに、とりあえず悪いのはどちらかと言うと林健治さんの方で、林眞須美さんは、どう考えてもカレー事件の真犯人とは思えなかった。
確かに、当時の林家は近所との折り合いも悪そうで、林眞須美さんが近所の連中を恨んでヒ素を仕込んだ・・ことも考えられないこともないが、彼女がカレーの鍋に何か入れていたという目撃証言も曖昧だし、何より、当時は農薬や害虫駆除などで一般家庭でも所有していることもあったそうで、林家以外でも、和歌山市でヒ素を所持していた家庭もあったそうだ。
決定的な証拠もないのに、強引な捜査と判決により、死刑囚に仕立て上げられた印象を強く持ってしまう。

・・正直、今年5月に鑑賞した『正義の行方』で、「飯塚事件」の犯人とされて、同じく決定的な証拠もないまま、死刑確定からわずか2年後にとっとと死刑執行された久間三千年については、何となくだが、多少の動機があったように思ってしまったが・・
林眞須美さんに関しては、さんざん林家でヒ素の恐ろしさを実感しているのに、いくら憎たらしいご近所さんでも、ヒ素で殺害してやろうなんて考えるだろうか・・まったく動機が不明である。

林健治さんが「保険金詐欺で大金を得た。だからこそ、一銭にもならない殺人なんかするわけがない」と語っているそうだが、まったくその通りではないだろうか。
警察も検察も、令和になっても未だに特高気質が抜けていない気がして、ホンマにそろそろまともな組織になって欲しいわ・・
あと司法も。「疑わしきは罰せず」じゃないんかい？

なお二村真弘監督は、元々は取材内容をYouTubeのチャンネルでアップしたコンテンツを、映画版として再編集したそうで、YouTube動画のほうはかなりのボリュームのようで、まだ未見だが、おそらくこちらは解説も細かいと思われる。

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